ふらっと東アジア

国連人権高等弁務官の訪中とウイグル族の本音

米村耕一・中国総局長
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以前はモスクだった建物。内部の柱も取り外されていた=中国新疆ウイグル自治区カシュガルで2021年2月27日、米村耕一撮影
以前はモスクだった建物。内部の柱も取り外されていた=中国新疆ウイグル自治区カシュガルで2021年2月27日、米村耕一撮影

 5月下旬に中国・新疆ウイグル自治区を訪問した国連のバチェレ人権高等弁務官に対して、メディアや各国政府、人権団体から失望の声が相次いだ。

 米紙ワシントン・ポストは5月30日の社説で「(ウイグルの人権問題に関する報告書の発表を遅らせてまで)訪中する価値はなかった。中国は宣伝目的に悪用するだろう」と指摘し、米国や欧州の政府は「期待外れだった」(独外務省)、「懸念が残る訪中だった」(ブリンケン米国務長官)との声明を相次いで出した。

 いずれも中国側による制限により、自由に実態を見ることができないまま訪中を終えたことを批判するものだ。しかし、中国で自由な視察が困難なのは最初から分かっていたことであり、だからといって現地を見ることが無意味だというのも、やや乱暴な議論に思える。私自身の体験や、最近公開された中国内に住むウイグル族男性の手記から考えてみたい。

新疆で感じた監視と圧迫

 私が新疆ウイグル自治区を訪問したのは昨年2月だった。自治区南部カシュガル市内の飲食店で従業員と会話を交わした。「外国人か? カシュガルの印象はどうか?」といった、たわいのない話題だ。

 その後、彼は「あんたが店に来たことは当局に報告しなくてはいけない。そうしないと困ったことになる。理解してほしい」。そう言うと、申し訳なさそうにスマートフォンを取り出して私の写真を撮った。しょんぼりした表情を見て彼を責める気には全くならなかった。

 こうしたやり取りから当局による監視や圧迫の一端を実感できたが、同時にこの地域で外国人記者の私が、相手に迷惑をかけず本音を聞き出すことの難しさを改めて悟った。

 そうした限界を実感していたので、6月上旬に中国専門ニュースサイト「サップチャイナ(SupChina)」上で公表されたウイグル族男性による本音にあふれたA4サイズで4枚の手記を読んだときには、強い感動を覚えた。

 筆者は現在、自治区外の中国東部に住むウルムチ出身の若い男性だ。手記は最近、中国国内で書かれ、人づてに国外に持ち出された。新疆に長期滞在経験のあるカナダ・サイモンフレーザー大学のダレン・バイラー博士が本人の了承を得て、編集を加えた英訳と中国語原文を公開した。

中国内に住むウイグル族男性の本音

 手記には、デジタル技術を駆使した監視などにより生きにくい日常や、宗教に熱心だったり、外国と少しでも関係があったりした家族、親族が収容施設に入れられた状況がつづられている。

 「実際のところ、ただ一人のウイグル人も国内外のメディアの前で真実を語ることはないだろう。その一言で自分だけでなく、愛する人々も閉じ込められ、政治的迫害を受けることになるからだ。しかし、もし、安全な場所、絶対に秘密が守られる環境、真の保護があるならば、実情を話したいと思うウイグル人は何百万人もいるはずだ」

 男性はこう書いた上で、こうした人たちが訴えたいであろう出来事を…

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。