不思議の朝鮮半島

日韓関係にも影響? 「韓国のトランプ」はどこへ

坂口裕彦・ソウル支局長
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投票日が迫る中、有権者との記念撮影に応じる李在明氏=韓国西部・仁川市内で2022年5月30日、坂口裕彦撮影
投票日が迫る中、有権者との記念撮影に応じる李在明氏=韓国西部・仁川市内で2022年5月30日、坂口裕彦撮影

 韓国政治はダイナミック過ぎる。政治家は常に動き続けないと忘れ去られてしまう。だから長期的、大局的な視点が生まれにくい。日韓関係の冷え込みにも影響しているのではないか――。そんな考えが頭を巡ったのは、わずか3カ月間で、すっかり様変わりした元大統領候補の姿を目の当たりにしたからだ。

 韓国の国会議員補欠選挙を取材するため、5月30日、仁川(インチョン)国際空港で知られるソウル近郊の都市・仁川に入った。選挙カーからひたすら手を振る。細い路地裏まで歩いて、市民一人一人と握手を重ねる。進歩系の「共に民主党」から出馬した李在明(イ・ジェミョン)京畿道(キョンギド)前知事(57)は、必死の「どぶ板選挙」を展開していた。

 李氏は、3月9日投開票の大統領選で、保守系の「国民の力」候補として当選した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(61)と激しく争い、得票率で0・73ポイントの僅差で敗れた人物。大統領選のさなか、ソウル市中心部で、「有能な経済大統領が必要だ」と数千人の市民に訴えていた姿には華があった。

 6月1日に投開票された韓国の統一地方選は、尹大統領を支える与党の国民の力が、ソウルや釜山など広域自治体17カ所の首長選では12カ所、国会議員補欠選挙(改選数7)でも5議席を獲得して圧勝した。これで5月10日に発足した尹政権は信任を得た形となり、国政運営に弾みがついた。一方、野党の共に民主党は、政権を明け渡した大統領選に続く手痛い敗北となった。

 注目を集めたのが、大統領選から間もないタイミングで、再起を期して、国会議員補選に打って出た李氏だった。選挙区は、共に民主党の強固な地盤。知名度もあるから、楽勝とみられた。ところが、李氏が国民の力候補にリードを許しているとのまさかの世論調査結果が判明し、私はあわてて現場へと向かった。先に紹介したどぶ板選挙の場面はこの時のものだ。

 李氏はたたき上げの政治家だ。実家は貧しく、工場で働きながら、中学や高校の卒業資格を得た。苦学の末、大学を卒業。1986年に司法試験に合格してからは人権派の弁護士として活動した。その後、政治家に転じて、ソウル近郊にある京畿道の城南(ソンナム)市長や道知事をつとめた。国会議員の経験はなかったものの、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で「韓国のトランプ」の異名をとり、対日強硬派として知られている。

 「肉薄された時期もあったが、再びリードしている。大丈夫だ」。地元のカフェで取材に応じてくれた陣営幹部の丁秦旭(チョン・ジンウク)さん(57)は、イチゴジュースで喉を潤しながら、李氏への期待感を隠さなかった。「政治手腕はもちろん、人気もある。党改革の先頭に立って、党勢を回復させてほしい。5年後の大統領選への再挑戦も視野に入れるなら、8月の党代表選にも当然出馬すべきだ」。…

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坂口裕彦

ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。