アフリカン・ライフ

軍隊も投入 ワクチン接種優等生の国のなぜ

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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ワクチン接種会場に派遣されている衛生兵のカボ・ディチェカニャネさん(左)=ボツワナの首都ハボローネで2022年6月7日、平野光芳撮影
ワクチン接種会場に派遣されている衛生兵のカボ・ディチェカニャネさん(左)=ボツワナの首都ハボローネで2022年6月7日、平野光芳撮影

 アフリカでは新型コロナワクチンの接種が遅々として進まず、6人に1人ほどしか接種を終えていない。ただ国別の一覧を見ると大きな開きがある。最低レベルは2%台のコンゴ民主共和国で、ここは1、2月に現地取材して原因を探った<ワクチン接種率0・3%の国で>。一方、60%台とトップクラスで目を引くのが南部のボツワナだ。

 ボツワナは南隣の南アフリカとの関係が深い国である。国民の8割を占めるツワナ人は南ア側にも多く、親族が両国にまたがって暮らしているのも珍しくない。面積が日本の1・5倍あるものの大半が砂漠で、人口は南アの25分の1の約240万人しかいない。経済や文化で南アの影響を強く受け、皮肉交じりに「南アの10番目の州」と呼ぶ人もいるほどだ。

 ところがワクチン接種率で見ると南アが30%台でほぼ横ばいなのに対し、ボツワナはその倍近い。民族や風土で両国の区別はほとんどつかないのに、なぜワクチンでは大きな差が生じているのか。理由を探るため、ボツワナ政府から取材許可を得て現地に向かうことにした。

国境にいきなり接種会場

 かなたまで直線道路が続き、前後にはまったく車が見当たらない。両側にはサバンナの低木群が広がり、遠くにはテーブル状の山々がそびえる――。南アフリカの田舎道のドライブは楽しい。ヨハネスブルクからボツワナの首都ハボローネまでは直線距離で約270キロ。マイカーでも休憩を入れて自宅から6時間ほどで、飛行機を使うのと合計の移動時間はさほど変わらない。雄大な景色に加え、自分で運転して国境を越えるのは日本では絶対にできない経験で、私は迷わず車を選んだ。

 出発から5時間半ほどで国境検問所に着いた。南ア側の入管で出国手続きをした上、車ですぐ隣にあるボツワナ入管に移動して入国手続きをする流れで、窓口がすいていれば計10分ほどで通過できる。

 検問所のボツワナ側で目に入ってきたのが小さなプレハブ小屋だ。入り口に「VACCINATION(ワクチン接種)」と書かれたコロナワクチンの接種会場だった。ボツワナはコロナ対策として入国者にはワクチン接種証明書もしくはPCR検査の陰性証明書の提示を義務付けている。さらに独特なことに両証明書がない場合は、「その場で接種を受ける」という選択肢もある。政府は入国・帰国者全員にワクチン接種を義務化しようとしたこともある。これは世論の反発で頓挫したが、接種に対する政府の執着を表しているとも言える。

 検問所を越えて10分ほど走るとハボローネの市街地に入る。街の雰囲気は南アと変わらないが、街頭にいる人の多くがきちんとマスクをつけていて驚いた。南アでは感染拡大が落ち着いたとして、屋外での着用義務が既に廃止されている。3月に出張で訪れたポーランドでも同様で、屋外でマスクをしている人を目にするのは久しぶりだった。「ボツワナでもオミクロン株の派生型による感染者が出ていて、引き続き警戒が必要です」。現地の案内を頼んだ地元紙の女性記者はそう話した。

 地元の人のワクチンに対する考えを聞こうと街頭で声を掛けると、大半の人が接種済みだった。市内中心部のバス乗り場で、野菜や卵を売っていたバトゥシ・セペコさん(38)はジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを追加分も含めて2回接種済み。「周囲の人も皆、接種しているし全く抵抗感はなかった」。接種の大きな理由は仕事の都合だ。売り物の多くを南アから直接仕入れており、頻繁に国境を行き来する。接…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」