ウクライナ侵攻の本質にあるナショナリズム

野田毅・日中協会会長
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野田毅氏=須藤孝撮影
野田毅氏=須藤孝撮影

 ロシアのウクライナ侵攻が起きたことで権威主義への懸念が高まっている。しかし、本当に世界を不安定にしているのは、民族主義、ナショナリズムが高まっていることだ。

ナショナリズムをあおる指導者

 世界的に見れば、自由な選挙が実施され、政策の違いによって政権交代が起こる国は極めて少数だ。形の上で選挙を実施していても、実際にはナショナリズムをあおる独裁者による国家が増えている。

 冷戦の終結後、「全欧安保」という夢があった。イデオロギーによる東西対立が終わったことで欧州が一つになり、平和がくると思った。ウクライナ侵攻で明らかなように、それを妨げたのがナショナリズムだ。

 ロシアから見れば自らの民族が、ウクライナという自国の領域外にいる。それを取り込もうとするナショナリズムによって紛争が起きる。今回ロシアは「国外(ウクライナ)で自らの民族(ロシア民族)が迫害されている」と主張してウクライナに侵攻した。世界の歴史のなかでは同じようなことはいつも起きてきた。

 地続きの欧州ではいろいろな民族がいろいろな国に点在しているのは当たり前のことだ。戦争で避難した、あるいは強制移住をさせられたなど、それぞれの歴史がある。

 不透明な時代になり、「仲間がやっつけられている、不当な扱いを受けている」となればじっとしていられない。平和な時にはなんでもないことが、問題になるようになる。そのなかで「血を分けた」という意識が今、息を吹き返している。

 指導者がそれをあおるかあおらないかが問題だ。しかし、今、現にそれをあおってプーチン氏は侵攻した。ウクライナだけではない。世界中で同様のことが起きている。プーチン氏の手法は正当化できないが、そうした現実がある。

 一国では対応できないが、米国の世界の警察官としての役割は低下している。パックス・アメリカーナ(米国の平和)というが、もともと米国1国では無理なことだ。手を替え、品を替え仲間を増やしてきた。しかし、ナショナリズムによるトラブルが世界中に起きるようになり、手が回らなくなっている。特に中国が予想以上のスピードで台頭してきたことで米国も余裕がなくなってきている。

 時間を稼ぎ、行き着くところまで行かないようにすることを考えるしかない。ロシアを決定的に追い詰めて屈服させる可能性もゼロではないだろう。プーチン氏が退陣し、ロシアで民主的な選挙が行われて政権が交代すれば素晴らしいが、そんなことがすぐに起きるわけがない。

 ロシアをどこまで追い詰めるかということもある。ロシアに対する経済制裁は、制裁をする側にも影響が出ている。それはプーチン氏のカードにもなりうる。欧州のなかから、ロシアのナショナリズムに呼応するような動きも出てきている。答えは簡単ではない。

ロシアと中国は全く違う

 ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾への武力侵攻を重ね合わせる議論があるが、まったく事情が違う…

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野田毅

日中協会会長

 1941年生まれ。64年に旧大蔵省入省。72年衆院初当選。建設相、経済企画庁長官、自治相、自民党税調会長などを歴任。衆院当選16回。2021年衆院選を最後に議員を引退した。日中協会会長。