オアシスのとんぼ

韓国での世論対策がカギ 尹政権は対日関係を改善できるか

澤田克己・論説委員
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韓国の尹錫悦大統領=AP
韓国の尹錫悦大統領=AP

 日韓関係改善の大きな障害の一つが元徴用工問題だ。

 解決策として有力視されるのは、韓国政府がいったん原告に賠償を支払う「代位弁済」である。いわば韓国政府が「立て替え払い」をする形だ。韓国政府はその後、判決で支払いを命じられている被告の日本企業に請求する。現実的には、日本政府との外交交渉を通じて支払いを求めることになる。

 日本は1965年に締結された日韓請求権協定で解決済みという立場なので、交渉がまとまることはない。だが請求権協定を否定するわけではなく、日本企業が支払いを強制されるものでもないので、日本としては受け入れ可能だ。被告企業には自発的な寄付が期待されることになるかもしれないが、それはあくまで強制ではない。

 この案なら外交的な問題は回避できるが、問題は韓国世論の反応だ。世論の反発が強ければ尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の行動は縛られるし、そもそも反発が強いと判断されれば大胆な決定を下すことは難しくなる。

慰安婦合意失敗の教訓

 参考にすべきなのは、安倍晋三政権と朴槿恵(パク・クネ)政権による慰安婦合意の失敗だろう。今となっては忘れられがちだが、2015年12月末に合意が発表された時には韓国でも肯定的な受け止めが少なくなかった。

 韓国の民間調査会社リアルメーターが直後に実施した世論調査では、合意を「よかった」と評価した人が43・2%、「よくなかった」が50・7%だった。毎日新聞が翌月実施した日本での世論調査では、合意を「評価する」が65%、「評価しない」が25%だ。日本より韓国の方が厳しい見方が多いものの、それでも反対一辺倒ではなかった。

 本来なら両政府が協力して適切なフォローアップを講じ、世論の理解を高めるよう努めなければならなかった。だが韓国では外務次官が元慰安婦に合意内容を説明し、財団設立など合意内容の履行は淡々と進めたが、反発する当事者への説得に大統領が自ら乗り出すような粘り強い努力は見られなかった。かつて独裁者として君臨した父、朴正熙(パク・チョンヒ)と同じ権威主義的なイメージをまとった朴大統領の性格も、求められる国内対策を進めるには障害だった。

 日本側も、安倍氏が国会答弁で元慰安婦への謝罪の手紙について「毛頭考えていない」と突き放す答弁をして韓国側の反発を買った。安倍氏は、強固な支持者である右派層が合意に反発したことで強い態度を示した方が得策だと判断したのかもしれない。

 だが、謝罪の手紙は、それほど特別なものではない。1990年代から元慰安婦に「償い金」などを支給したアジア女性基金の事業の際、橋本龍太郎氏から小泉純一郎氏までの歴代首相が同趣旨の手紙を出している。それだけに、朴政権の不作為によって悪化していた韓国世論をさらに硬化させることになった。

 その後、朴氏に対する大統領弾劾がさらに状況を悪化させ、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が当選した17年大統領選では主要候補すべてが「合意の見直し」や「破棄」を主張するようになっていた。文政権が合意を骨抜きにしたのは事実だが、それを容認する社会的雰囲気が作られていたことは無視できない。

 徴用工問題では、同じ失敗を繰り返さないことが重要となる。…

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澤田克己

論説委員

1967年生まれ。埼玉県狭山市出身。91年入社。ソウル支局やジュネーブ支局で勤務した後、論説委員を経て2018年から外信部長。2020年4月から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』、『反日韓国という幻想』、『新版 北朝鮮入門』(共著)など。