欧州深層

投資熱高まる核融合 人類の夢は近づくのか

宮川裕章・欧州総局長
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フランス南部サンポールレデュランスで建設中のITER=ITER機構提供
フランス南部サンポールレデュランスで建設中のITER=ITER機構提供

 近づけば遠ざかり、たどりつけない。人類のエネルギー問題を一気に解決する可能性のある「核融合炉」の完成予想時期は、逃げ水のようだ。科学者の間では、「核融合が実現するのは30年後、いつまでたっても30年後だ」という定番のジョークがある。

 核融合は原子核同士が衝突して結びつき、別の重い原子核になる反応だ。太陽の内部で起きている現象と同じで、この反応から生まれる熱を利用する核融合炉の研究は「地上に太陽をつくる」試みと形容される。

 燃料となる重水素やトリチウムは海水中などから得られるため、無尽蔵のエネルギーとも呼ばれる。地球温暖化の原因となる二酸化炭素も排出しない。

原子力にはない魅力も課題は実現性

 ウランの核分裂を利用する原子力と混同してはいけない。高レベル放射性廃棄物が出ることもなく、炉の暴走につながる連鎖反応も起きない。むしろ弱点は、より根源的なところにある。「実現しないものに無駄なお金を使っているのではないか」という懸念だ。特に核融合反応に必要とされる、高温で原子核が高速で飛び交うプラズマと呼ばれる状態を作り、維持するのが困難を極める。

 8年前の2014年、フランス南部で欧州連合(EU)と日本、米国、韓国、中国、インド、ロシアが共同で開発を進める国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」を取材した。直径30メートル、重量2万3000トンの巨大な実験炉が据え置かれる基礎部分の工事が進んでいた。

 今は建設作業の7割が終わった段階だ。世界の英知を結集するこの共同研究構想が生まれたのは1980年代。当初20年に予定されていた実験開始時期は25年に延期され、約50億ユーロ(約7000億円)と見積もられた総工費は現在、200億ユーロ(約2兆8000億円)に跳ね上がっている。こうした技術を応用した商業炉で発電が始まるのは50年以降とされているが、実際には誰にも分からない。

技術革新が投資の呼び水に

 だが、この核融合をめぐる環境に変化が起きている。発信源は国際プロジェクトではなく民間企業だ。米国に本部を置く「核融合産業協会」(FIA)の報告書によると、核融合関連の開発を行う世界のスタートアップ(新興企業)は17年の15社から、22年には28社に増加。スタートアップへの投資額は現在44億ドル(約5984億円)に達し、その約半分は最近1年間のものだ。

 投資家のリストには、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏や、アマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏ら、世界のビッグネームが並ぶ。FIAのアンドルー・ホランド最高経営責任者(CEO)は、こうした投資について「決して単なる投機ではない。科学的、技術的ブレークスルーが起きた結果だ」と語る。

 米国…

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宮川裕章

欧州総局長

1997年入社。さいたま支局、東京本社社会部、外信部、パリ特派員、経済部、外信部デスクを経て2022年4月から欧州総局長。著書に『フランス現代史 隠された記憶』(ちくま新書)、共著に『独仏「原発」二つの選択』(筑摩選書)、『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』(毎日新聞出版)など。