我が国を取り巻く安全保障環境が激変している。
国際法を無視して他国への武力侵略に踏み切ったロシアに加え、中国は急激に軍事力を拡大し「力による現状変更の意思」を明確にしている。
北朝鮮はミサイル開発を活発化し、核開発を着実に進めている。欧州で既に見られている国際秩序を根底から覆す事態が東アジアで発生しないとは言い切れないだろう。
国防はリアリズムだ。国民の生命と財産を守り抜くためにはタブーを設けることなく議論し、激動する国際情勢に冷徹かつ柔軟に対応していく必要がある。
我が国独自の防衛力の整備や同盟国・米国はじめ他国との連携強化など平時からの備えが緊急の課題であり、護憲派対改憲派という旧態依然としたイデオロギー対立に固執することなく、憲法とも真正面から向き合うべきだ。
ただ、憲法議論のスタートは、戦後日本の平和国家としての歩みを尊重することから始めなければならない。国民が継承してきた憲法前文は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」「恒久の平和を念願し,(中略)全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と宣言しており、この前文及び9条の理念は今後も確実に次代へと引き継がなければならない。
9条の目指す理想と我が国を取り巻く現実とのギャップを埋めるための議論は不断にしていかなければならないが、厳しさを増す国際情勢に乗じて、危機感を煽(あお)ることや、感情論からの安易な憲法改正は厳に慎むべきだ。
国民と共に時代の要請に合った憲法をつくり上げることは非常に重要である。しかしその一方で、憲法改正以前にできることは多い。国民保護体制の抜本的な強化や尖閣諸島はじめ南西諸島防衛のためのグレーゾーン事態への対処、弾道ミサイル等の脅威への対処能力強化や米国の「核の傘」の信頼性強化などは政治の責任として万全な体制を早急に整えるべきだ。
さらには、日本の国防政策の根幹となる国家安全保障基本法の制定こそ本来は9条改正に優先して実現すべきである。
改憲議論を巡り、自民党は9条に自衛隊を書き加える改憲案を主張している。しかし、国家の安全保障よりも法律論を優先させる中途半端で無責任なものと言わざるを得ない。
自衛隊は世界最高水準の装備と鍛え抜かれた実力部隊を備える戦力だ。9条第2項の「陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない」とした規定との文理解釈の齟齬(そご)がある。確かに、憲法に自衛隊が書き加えられれば、憲法学者などからたびたび指摘される自衛隊の違憲性は解消されるだろう。…
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