声なき声を捕捉せよ

安倍氏の死と「民主党」の存在意義

平田崇浩・世論調査室長兼論説委員
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沿道の人が手をあわせるなか、安倍晋三元首相を乗せて国会議事堂(奥)の前など都内を走る車=東京都千代田区で2022年7月12日、和田大典撮影
沿道の人が手をあわせるなか、安倍晋三元首相を乗せて国会議事堂(奥)の前など都内を走る車=東京都千代田区で2022年7月12日、和田大典撮影

 安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなった7月8日、安倍氏が敵視し続けた「民主党」も死出の道連れとなったのではないか。私にはそのように思えてならない。

 「民主党」とは、旧民主党と、その流れをくむ政治勢力を指すものと定義させていただく。現時点の「民主党」の代表格は立憲民主党だが、参院選の比例代表では日本維新の会の得票に及ばず、いよいよ野党第1党の座が危うくなってきた。

世論の期待は立憲20%、維新46%

 参院選の投開票から1週間となる7月16、17日に毎日新聞と社会調査研究センターが実施した全国世論調査の結果は、立憲民主党の退潮を強く印象づけた。

 「立憲民主党と日本維新の会のどちらに期待しますか」との質問に「立憲民主党」との回答は20%にとどまり、「日本維新の会」の46%の半分にも及ばなかった。「どちらにも期待しない」の28%をも下回ったことは、もはや野党第1党の任にあらずとの宣告を突きつけられたに等しい。

 岸田文雄政権の与党は参院選で圧勝したが、調査結果を見る限り、岸田政権の政策に対する世論の不満は小さくない。物価対策については「評価する」14%、「評価しない」58%、新型コロナウイルス対策は「評価する」35%、「評価しない」34%だった。にもかかわらず、内閣支持率が参院選前の6月調査比4ポイント増の52%を維持しているのは、不満の受け皿となる野党の不在によるものと言って良いだろう。

歴史的使命を投げ出した「民主党」

 2009年に政権交代を成し遂げた旧民主党が有権者から託された歴史的な使命は、少子化・人口減少とデフレ不況に象徴される日本の経済・社会の衰退に歯止めをかけ、再び成長軌道に乗せることだったと私は考える。しかし、旧民主党政権は消費税の引き上げなどをめぐる内紛で瓦解した。

 思えば細川護熙政権の発足前後から始まる平成の政治・行政改革は、経済バブルと冷戦構造の崩壊を受けて、昭和に築かれた古い日本の経済・社会構造を新しく再構築するため、まずは政治構造を政権交代可能な体制に変革しようという試みだった。それが旧民主党政権としていったん結実したわけだが、旧民主党政権は自壊という形でその歴史的使命を投げ出した。

 旧民主党から政権を奪還した自民、公明両党はその使命を引き継ぐことを期待されたが、歴代最長を誇った安倍政権も、看板に掲げた「日本を取り戻す」までには至らなかった。ならば再び野党の出番となっても良い状況なのに、一度、国民を裏切った「民主党」勢力が期待を取り戻すのは容易ではなかった。

 世論にまん延した政治不信は、立憲民主党以外の既成政党にも向けられている。参院選比例代表では自民、公明、共産各党も議席を減らし、代わって議席を伸ばしたのが維新、新たに議席を得たのが参政党だった。

3年後の日本「良くなっている」14%

 ただ、有権者の政治不信は特定の政策に向けられているわけではない。岸田首相は、大きな国政選挙に政権の体力をそがれることなく政策実行に専念できる「黄金の3年間」を手にしたと言われる。今回の調査で、岸田政権に最優先で取り組んでほしいと思う政策を一つ選んでもらったところ、景気対策31%▽物価対策24%▽外交・安全保障11%▽少子化対策10%▽憲法改正10%▽社会保障9%――と分散した。景気対策と物価対策を合わせた経済対策で過半数を占めているが、景気を上げるのと物価を下げるのとでは方向性が必ずしも一致しない。

 少子化対策を含め、平成以降の「失われた30年」に対する処方箋を既成政党も新興政党も有権者に提示できていないから、参院選の焦点も分散し、圧勝した与党に対しても期待感が高まらない。調査では、次の参院選が行われる3年後の日本の社会が今より「良くなっていると思う」との回答は14%しかなく、「良くも悪くもなっていないと思う」という現状維持を想定する回答が37%、「悪くなっていると思う」という悲観派が36%だった。

 憲法改正の旗を振ってきた安倍氏は死去したが、安倍氏を支持してきた保守層が自民党の岩盤支持層として政権を支える構造に変わりはない。…

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平田崇浩

世論調査室長兼論説委員

1967年生まれ。広島県三原市出身。89年入社。97年から政治部。さいたま支局長、世論調査室長、政治部編集委員、論説委員を経て2020年から2回目の世論調査室長。