風考記

「普通」を裏切る 極まるトランプ流

西田進一郎・北米総局長
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首都ワシントンで開かれた会合で演説し、親指を立てて聴衆に応えるトランプ前米大統領=2022年7月26日、ロイター
首都ワシントンで開かれた会合で演説し、親指を立てて聴衆に応えるトランプ前米大統領=2022年7月26日、ロイター

 「そんなこと、普通はない」という常識にとらわれると、見通しを誤る。政治とは無縁のトランプ前米大統領が共和党予備選を勝ち抜き、民主党のクリントン候補を破った2016年大統領選挙を追いかけた者の胸に刻み込まれている教訓だ。

 思い出したのは、トランプ氏が早くも24年大統領選への立候補を表明しようとしているという情報が流れ始めたからだ。7月初旬、米紙ニューヨーク・タイムズなどが、トランプ氏が早期の表明に前のめりになり側近らが準備を始めたと報じた。

 大統領選の候補者たちが出馬表明するのは通常、選挙の前年だ。今回で言えば、来年になる。年明け以降、各地の集会で演説し、資金提供者を獲得して、党内での支持率などを見ながら立候補するかを決断する。表明は春から夏にかけて相次ぐ。抜群の知名度を誇り、党内で強い影響力を持つトランプ氏が早く動き出す必要はない。「普通」に考えれば早すぎる。

立候補の判断「既に決めた」

 だが、本人は14日付の米誌ニューヨーク・マガジンのインタビューで、立候補の判断について「自分の中では既に決めた」とし、11月の中間選挙を念頭に「大きな決断は、(表明が)それよりも前なのか後なのかだ」と語った。

 背景の一つは、連邦議会襲撃事件を巡る下院特別委員会などの動きだ。

 事件をおさらいしておこう。トランプ氏は落選した20年大統領選について、十分な証拠を示さずに「選挙は盗まれた」と主張。その「裏付け」を探すよう司法省に指示し、応じない長官代行を更迭しようとした。敗れた州には、選挙結果を「変える」ようにさまざまな圧力をかけた。

 大統領選の結果を確定する21年1月6日の上下両院合同会議前には、上院議長として出席するペンス副大統領に結果を打ち消すように働きかけた。拒まれると、トランプ氏はホワイトハウス近くに集まった支持者らの群衆に議事堂に向かうように呼びかけ、襲撃が起きている最中には「ペンスはすべきことをする勇気がなかった」とツイッターに投稿した。

尾を引く議事堂襲撃事件

 特別委は今年6月から計8回の公聴会を開いた。側近らでさえ否定する中、虚偽の主張を続け、選挙結果を覆そうと試みるトランプ氏の姿を、当時のホワイトハウスのスタッフらの証言などを通じて鮮明にした。チェイニー副委員長(共和党)は7月21日の公聴会で「トランプ氏は支持者らの愛国心を、我々の議事堂と憲法に対する武器に変えてしまった」と指弾した。

 トランプ氏は、選挙結果を覆そうとさまざまな計画を立てた「国家を欺くための陰謀」や、合同会議での選挙結果の確定を阻もうとした「公務執行妨害」などの罪に問われる可能性がある。

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西田進一郎

北米総局長

 1975年生まれ。97年に入社し、岡山、神戸などの支局や東京社会部を経て2005年から12年まで政治部。その後ワシントン特派員や政治部デスク、政治・安全保障担当の論説委員を経て22年4月から現職。