安倍元首相の死に思う

白井聡・京都精華大学国際文化学部准教授
白井聡氏=山田尚弘撮影
白井聡氏=山田尚弘撮影

 安倍晋三元首相が銃撃、殺害されてから3週間がたった。いま私は、この襲撃事件から受けた以上の衝撃を、事件後の展開から受けている。何よりも驚くべきは、元首相であり退任後も大きな影響力を持っていた政治家が殺害され、その動機が反社会的活動により悪名高い宗教団体=世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関連していることが明らかになったにもかかわらず、岸田文雄首相がこの間、統一教会に関して一言たりとも言及していない(7月28日現在)、という事実である。

 凶行に至った山上徹也容疑者の動機に不審な点はないと言えるだろう。山上容疑者は、自分の家族と自分自身の人生を台無しにされたことから統一教会に対して強い恨みを抱き、団体の最高幹部を殺害したいと欲したが、それが困難なために、日本における統一教会の最大の守護者であると見なした安倍氏を殺害することにした。

 この動機をどう見るか。山上容疑者が統一教会によって深刻な被害を受けたことは揺るぎない事実であるから、安倍氏殺害の動機の解釈は論理的には2通りしかあり得ない。すなわち、山上容疑者が安倍氏を狙ったのは完全な逆恨みであり、とてつもなく錯乱した論理によって凶行に走ったと見なすのか、それとも、安倍氏を統一教会の守護者と見なしたことには一定の合理性があったと見なすのか、二つに一つである。

 前者であるとすれば、岸田氏は、首相として、また自民党総裁として、安倍氏と統一教会につながりがあったとする見方を全力で否定しなければなるまい。それは故人の名誉にかかわる。後者であるとすれば、これまた首相として、また自民党総裁として、統一教会と安倍氏との関係、ひいては自民党との関係について、何らかの見解を示さなければならない。…

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京都精華大学国際文化学部准教授

 1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。著書に「永続敗戦論――戦後日本の核心」(太田出版)、「未完のレーニン――<力>の思想を読む 」(講談社選書メチエ)、「『物質』の蜂起をめざして――レーニン、<力>の思想」(作品社)、「国体論――菊と星条旗」(集英社新書)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)、「主権者のいない国」(講談社)など。