信教の自由と献金

佐藤優・作家・元外務省主任分析官
佐藤優氏=手塚耕一郎撮影
佐藤優氏=手塚耕一郎撮影

 日本国憲法第20条1項は<信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又(また)は政治上の権力を行使してはならない>と定めている。いわゆる政教分離原則だ。

 政教分離原則については二つの考え方がある。第一は、旧ソ連、現在の中国や北朝鮮がとっている解釈だ。宗教は内面的信仰に限定され、政治に関与すべきでないという考え方だ。第二は米国や日本などでとられている考え方だ。政教分離原則は国家が特定の宗教や宗教団体を優遇もしくは忌避することを禁止したもので、宗教団体が自らの価値観に基づいて政治活動を行うことを認めるという考え方だ。ドイツにはキリスト教民主同盟のような宗教的価値観を基盤にした政党が強い影響力を持っている。

 7月8日に安倍晋三元首相が山上徹也容疑者に銃撃され死亡した事件をきっかけに、政治と宗教の関係に関心が集まっている。

 <山上容疑者は「母が団体に多額の献金をし、家族がめちゃくちゃになった。10代の頃から団体を恨んでいた」と供述。20年以上、韓国発祥の宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」を憎み、団体幹部の殺害も画策していた>(7月23日「毎日新聞」電子版)

 政党、企業、労働組合、宗教団体などいかなる組織であっても、違法行為や脱法行為はもとより社会通念に著しく反するような行為が批判されるのは当然のことだ。報道されているような、山上容疑者の母親が旧統一教会に1億円以上の献金をした結果、破産し、家族が苦しい状況に陥れられたということならば、法的手段(民事訴訟)と言論を通じて、こんな多額の献金は公序良俗に則しておかしいと教団に対して異議申し立てを行うのが通常の手法と思う。

 山上容疑者は法的手段や言論による解決を最初から視野に入れず、個人的に暴力に訴えることで問題を解決しようとした。日本の民主主義制度が機能していれば、このような自力救済(そこには恨みを晴らすことも含まれる)を目的にした殺人事件は起きないはずだ。

この記事は有料記事です。

残り1143文字(全文1980文字)

作家・元外務省主任分析官

 1960年生まれ。同志社大大学院博士前期課程修了。神学修士。外務省入省後、モスクワの日本大使館に勤務。著書に「自壊する帝国」「私のマルクス」など。毎日新聞出版より「佐藤優の裏読み! 国際関係論」を刊行。