
対面では1年9カ月ぶりとなるはずだったカンボジアでの日中外相会談は、直前に中国がキャンセルした。9月29日の日中国交正常化50周年まで2カ月を切っているが、意思疎通すら難しい状況だ。日本は対話を呼び掛けているものの、ペロシ米下院議長の訪台に対抗策をとる中国は当分応じないだろう。
そんななかで、韓国の朴振(パク・ジン)外相は8月9日、中国の青島を訪れて中国の王毅外相と会談した。韓国の保守層からは、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が訪韓したペロシ氏と直接会談しなかったのは外相の訪中が控えていたためで不適切だったという批判が出ている。
会談後、韓国に配備された米軍の終末高高度防衛(THAAD)ミサイルをめぐって中韓間で不協和音が生じてもいる。
それでも、台湾周辺での軍事演習などで地域の緊張を高める中国と対話する意義はあった。では、日本はどのような対応をとるべきか。
習近平氏訪日見送りから続く漂流
日中関係は、2020年春に習近平国家主席の国賓訪日が見送られて以降、漂流してきた。
「今は、『戦略的互恵関係』も『競争から協調へ』も使っていない」。日本政府関係者は、現在の日中関係を定義する言葉は見当たらないと話す。「戦略的互恵関係」は06年に、「競争から協調へ」は18年に、いずれも安倍晋三首相(当時)が訪中した際、相互利益をもたらす関係構築を目指して表明したものだ。現状はこのいずれにも当てはまらない、と言う。
5月には、中国が日中中間線付近のガス田開発を続けていることが明らかになった。日本側は6月に開かれた局長級の日中海洋協議で、ロシアによるウクライナ侵攻を引きながら、「国際社会は中国と名指しせずに、一方的な現状変更の試みに懸念を表している。なぜわざわざ自らこうした行為をするのか」と伝えた。中国側は苦笑いしていたという。
参院選後には、宏池会の伝統を強調する岸田文雄首相が対中外交で手腕を発揮するとの期待があったが、安倍氏の襲撃事件によって東アジア外交は身動きがとりにくくなった。対中外交はナショナリズムに火が付きやすい。保守層を説得できる安倍氏がいなくなったことが影響している。
参院選から数日後、外務省幹部は「林芳正外相の訪中はただでさえ難しかったのに、これでダメになった」と言い、50周年の記念行事も白紙だと嘆いた。
生きているチャンネルはどこか
中国は日本の出方を見ていたが、台湾周辺での軍事演習計画などを主要7カ国(G7)が批判したため、会談をキャンセルせざるを得なくなったのが正直なところだろう。
朴氏の訪問を受け入れた王氏は会談冒頭で、「互いの内政に干渉してはならない」と述べた。日米などと足並みをそろえないよう韓国をけん制…
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