安倍氏の国葬 議論が必要だ 速やかに国会召集を

古賀伸明・元連合会長
葬儀を終え、安倍晋三元首相のひつぎを乗せた霊きゅう車を見送る大勢の人たち=東京都港区で2022年7月12日、手塚耕一郎撮影
葬儀を終え、安倍晋三元首相のひつぎを乗せた霊きゅう車を見送る大勢の人たち=東京都港区で2022年7月12日、手塚耕一郎撮影

拙速すぎる決定

 岸田文雄首相は、7月8日の安倍晋三元首相の死去から約1週間後の14日に記者会見で「国葬」とすることを表明、2週間後の22日の閣議で一気に決定した。自ら「聞く力」を掲げ、国会の答弁では再三「検討する」との慎重な姿勢が目立った岸田首相としては、拙速すぎると言わざるを得ない。

 55年ぶりの国葬決定の背景には、政局をにらんだ党内政治力学として、岸田首相の政治判断があったとみるべきだろう。安倍氏の存在が岸田内閣の権力基盤に影響を与えていたことは間違いなく、最大派閥の領袖(りょうしゅう)である安倍氏を支えてきた保守支持層を引き寄せる狙いだ。

 野党のみならず政府・与党内にも慎重論があり、落ち着いた状況の中で、世論の動向も参考にしながら決めるべきではなかったのか。この岸田首相の急ぎすぎとも思える動きが、臨時国会での追悼演説の人選に与野党から異論が続出し延期という混乱も招いた。

国会で議論を尽くすべきだ

 国葬に関する法律や基準はない。戦前の法的根拠であった国葬令は敗戦で1947年に失効した。岸田首相は「国の儀式」を内閣府の所掌事務のひとつとした内閣府設置法を根拠にあげたが、基準がない以上、時の政権によって恣意(しい)的に適用されることは避けられない。国会での説明や審議もない状態での政府の決定には賛同しかねる。

 国葬は全額が国費で支払われる。なし崩し的に準備が進められている現状はおかしい。法令上の明確な定めがない中で重要なのは、国民の理解と納得だ。国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である国会の関与は当然であり、議論を尽くす必要がある。そのプロセスを省いたことこそ民主主義が問われる。8月初旬召集の臨時国会も3日間で終了した。

検証が必要

 岸田首相は今回、国葬とする理由について、安倍氏が①憲政史上最長の8年8カ月にわたり首相を務めた②外交で高い評価をうけ、海外要人の多くの来日も想定される③民主主義の基盤である選挙中に銃撃を受けた経緯――を挙げた。

 在任期間は憲政史上最長となったが、退陣から2年弱で、現役の政治家だった安倍氏の歴史的評価は定まっていない。死を悼むことと、政権時の評価は当然区別しなければならない。業績には賛否両論があり、政権運営への評価は分かれているのも事実だ。もう少し時間をかけて冷静に検証されるべきだ。

 国葬に対する国民の賛否は現在も二分されており、賛否が渦巻く中では、故人を悼む静謐(せいひつ)な環境とはいえない。社会の分断がさらに深まり、政治家への冷静な評価が国葬というセレモニーで美化されてしまい、検証作業に支障がでることを懸念する。

 そもそも民主主義社会では、誰であれ政治家の国葬はふさわしくないのではないか。政治家の評価は一様ではなく、国葬という位置づけでは、有無を言わせず一方的な価値観を国民に強いることになるからだ。

旧統一教会と政治家の関係

 一方、安倍氏の銃撃事件をきっかけに、にわかに注目されることになったのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家との関係だ。…

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元連合会長

1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。