
英国の女王エリザベス2世死去のニュースをシドニーで聞いた。エリザベス女王は、もちろん英国の君主であったが、豪州をはじめとする他の14カ国の君主でもあった。そのことを意識していた日本人は一体どれくらいいただろうか。
豪州の地でこのニュースを聞くめぐりあわせに、私の心は打ち震えたのだが、どうも日本の多くの人にはその意味が伝わらなかった印象を持った。
15カ国の君主
英国国王を君主とする諸国は、コモンウェルス・レルム(Commonwealth Realm)と呼ばれる。豪州、カナダ、ニュージーランド、パプアニューギニアなどが比較的大きな国であり、その他にソロモン諸島やジャマイカなど、かつての英領の島々が含まれている。いずれも現在は独立国であり、もはや植民地ではないが、英国国王を元首とする立憲君主制の諸国である。
通常、国王の代理として「総督」(Governor-General)が任命され、国務を代行している。決して、英国の一部であるわけではなく、それぞれ独立した国であるが、英国国王を君主としている。したがって、エリザベス女王はこれらの諸国の女王でもあった。もちろん、立憲君主制をやめて共和制に移行することもある。最近では、2021年11月30日にバルバドスが共和制に移行して、コモンウェルス・レルムは1カ国少なくなった。
56カ国の諸国連合の長
これとは別にコモンウェルス(Commonwealth of Nations:日本では英連邦と呼ばれることが多い)諸国がある。
ほぼ元大英帝国ではあるが、そうでない国も数カ国が自主的に加盟している。これらの諸国は、もはや英国国王を国家元首とはしていないが共通の絆で結ばれている。
現在コモンウェルス諸国は56カ国ある。この諸国の連合の長が、やはり英国国王である。したがってエリザベス女王は、英国を含む15カ国の君主であったと同時に、コモンウェルスという諸国連合の長でもあった。
コモンウェルスとはいったい何かという問題は、ここでは難しすぎるので省く(中公叢書の小川浩之『英連邦―王冠への忠誠と自由な連合』をまずはご参照ありたい)が、エリザベス女王は在位の間、何度もコモンウェルス諸国訪問に出かけ、いつもそのつながりに気を配っていた。これらの諸国には文化的な靭帯(じんたい)が存在し、さまざまな場面でそれは認識される。
最も顕著なのは共通のスポーツであり、「コモンウェルスゲームズ」というオリンピックのような大会が4年に1回開催されるが、これには王室メンバーは必ず現れる。コモンウェルス諸国でしか行われないスポーツが、数多く存在する。クリケットなどもコモンウェルス諸国では熱狂的人気だが、その他ではさっぱりである。
大英帝国支配の過去への感情はさまざまでも、多くのコモンウェルス諸国で女王は愛されていた。コモンウェルス諸国の人口は25億を超え、地球上の全人口の約3分の1で…
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