無責任で幼稚な「買い物リスト」日本の防衛力整備

小川和久・静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト
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中国軍の上陸を想定した軍事演習をする台湾軍の兵士たち=台湾北部で2022年7月27日、台湾国防部提供・AP
中国軍の上陸を想定した軍事演習をする台湾軍の兵士たち=台湾北部で2022年7月27日、台湾国防部提供・AP

 安保3文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)の改定が大詰めなのだそうだ。年末までに何とかしなければならないという金切り声や、防衛費大幅増額に歓喜する関係者の様子を眺めながら、「日本は国を守れない」という気持ちを強くしている。

 打ち出された防衛費の使途を見ても、国家の安全を守ろうとする強い責任感が感じられず、ひたすら買い物リストが作成されていく様は幼稚ですらある。

いま、どうするか

 ロシアのウクライナ侵攻に触発されて、中国が台湾や日本に軍事的な触手を伸ばしはしないかとの懸念が生まれたのは無理もないことだ。日本は中国、ロシア、北朝鮮に囲まれており、それに備えるという認識も間違っていない。

 しかし、何に対してどのように備えるのかとなると、整理が必要になる。

 まず、中国、ロシア、北朝鮮とも日本を占領するだけの渡洋上陸作戦の能力はない。一方、日本を攻撃できるだけのミサイル能力は備えている。だから脅威はミサイルである。これこそ「いまそこにある危機」のはずだが、日本の防衛政策には「いまどうするか」がすっぽり抜け落ちている。

 そのように整理すれば、「いまそこにある危機」に対して、次の4点を可及的速やかに同時進行させなければならないことは明らかだ。①ミサイル防衛②反撃③シェルター設置による通常弾頭ミサイル対策④サイバー防衛――である。

平時の戦争

 日本の防衛政策が机上の空論に終始するのは、「平時の戦争」を戦っている感覚が欠如しているからだ。「平時の戦争」とは、外国に手出しをためらわせるだけの高レベルの抑止力を平時から構築していく営みで、それを実現できれば血を流す戦争を避けられるばかりか、外交的な発言力も強化することができる。

 日本に「平時の戦争」の戦場にいる自覚があれば、不足している装備品などについて、同じ戦場にいる米軍に借りるのは当然のことだ。立場が逆なら、米国は日本に提供を求めるだろう。

 ミサイル防衛を強化するため防衛省は2017年、「イージス・アショア」(陸上イージス)の導入を決定した。イージス艦のSM3ミサイルを陸上配備するもので、陸上自衛隊が運用する。数に限りがあり、ミサイル防衛以外の任務もあるイージス艦の負担を減らし、2カ所の配備で日本列島全域をカバーできるメリットは大きいと期待された。

 ところが19年に、配備先の秋田県新屋演習場の測量を防衛省がグーグルアースでおこなったため実測値と誤差がある、と地元紙がスクープ。ずさんなやり方に地元の不信感が高まった。もう一つの配備先・山口県むつみ演習場でも、迎撃ミサイル発射時に使うブースターを演習場内に確実に落下させるため、ソフト・ハード両面の改修に莫大(ばくだい)なコストと期間を要すると判明。結局、20年6月に河野太郎防衛相が計画を白紙撤回した。

米軍から借りる

 政府は仕切り直しとして20年12月、陸上イージスに代わる「イージス・システム搭載艦」2隻の導入を閣議決定したが、21年5月には総コストが9000億円近いとの試算結果が判明。…

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小川和久

静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト

 1945年生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣ではドクター・ヘリ実現に中心的役割を果たした。電力、電話、金融など重要インフラ産業のセキュリティ(コンピュータ・ネットワーク)でもコンサルタントとして活動。2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。『フテンマ戦記基地返還が迷走した本当の理由』『日米同盟のリアリズム』など著書多数。