パンダで始まり、パンダで続く日中関係?

青山瑠妙・早稲田大大学院アジア太平洋研究科教授
タケをかじるレイレイ=2022年9月5日(東京動物園協会提供)
タケをかじるレイレイ=2022年9月5日(東京動物園協会提供)

パンダと桜

 今年は日中国交正常化50周年に当たる。50周年を記念して、記念特殊切手が国交正常化の共同声明が署名された9月29日に発行される。日本を象徴する桜と中国の国花であるボタンの上にかわいらしいパンダが水墨画で描かれている。淡いピンクの花、薄緑のササ、そして白黒の愛らしいパンダ。おもわず「かわいい」と言ってしまうほど癒やしのデザインとなっている。

 ゆったりとした動きにそのあどけない表情。日本ではパンダの熱は冷めやらない。日本パンダ保護協会の名誉会長を務め、「パンダとわたし」の本まで出した黒柳徹子の底知れぬ「パンダ愛」は1972年にパンダが日本に初上陸して以来、広く知られている。そして2021年に、ラジオ番組「安住紳一郎の日曜天国」のなかで上野動物園の双子パンダの名前予想を取り上げたのも、笑顔を誘う話題となった。

 パンダは日中友好のシンボルであり、パンダに癒やされている日本人も多いので、日中国交正常化の記念切手にパンダを、ということは全く悪いことではない。しかしながら、日中国交正常化から50年たったいま、「いまだにパンダ?」「またパンダ」という思いも同時に抱いてしまう。

日中のすきま風

 1972年9月29日、当時の田中角栄首相と周恩来首相は北京で共同声明に署名し、「戦争状態の終結と日中国交の正常化という両国国民の願望の実現は、両国関係の歴史に新たな一頁(ページ)を開くこととなろう」とうたった。

 50年前の日中国交正常化の時と異なり、今年は日中両国がこの記念すべき50周年を盛大に祝うことはないであろう。国交正常化の記念日の2日前の9月27日には、安倍晋三元首相の国葬が営まれる予定である。メディアの報道は9月初めから国葬の賛否、そして国葬が近づくと弔問外交の一色に染まるだろう。習近平国家主席が国葬に参列しない限り、さまざまな日中国交正常化の行事がたとえ開催されたとしても、大きな注目を集めることはおそらくない。

 なによりも、日本も中国も、日中国交正常化50周年を祝賀するムードにはな…

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早稲田大大学院アジア太平洋研究科教授

 慶応大大学院博士課程修了。法学博士。米ジョージ・ワシントン大客員研究員を経て、2018年から早稲田大現代中国研究所所長。専門は現代中国政治外交。著書『現代中国の外交』は08年に大平正芳記念賞を受賞。