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中国で日本語熱が急速に高まる意外な理由

米村耕一・中国総局長
中国の大学統一入試「高考」の会場に向かう受験生たち=江蘇省南京市で2022年6月7日、新華社
中国の大学統一入試「高考」の会場に向かう受験生たち=江蘇省南京市で2022年6月7日、新華社

 日本ともゆかりの深い中国東北部の港町・大連に日本語を専門に教える学校「大連日語専科学校」(現在の大連外国語大学)が設立されたのは1964年のことだ。今年は日中国交正常化50周年の節目だが、正常化の8年以上前に日本との貿易拡大などを念頭に置いた周恩来首相(当時)が開設を指示した。日本語学習強化は、当時の中国政府の実利実益に基づく計算による判断だった。

 それから半世紀以上が過ぎた中国でここ数年、全く別の実利と計算に基づき、猛烈な日本語学習熱が高まっている。日本語が「英語に次ぐメジャー言語扱いになりつつある」との見方も出るほどだ。日中関係そして日本語を取り巻く状況がどう変わったのか。二つの時代の「日本語学習者」に話を聞いた。

急増する日本語での受験者

 まずは現在の中国の日本語旋風について紹介したい。実は日本語に猛烈な追い風が吹いているのは、大学入試の現場だ。日本語は、70年代から中国の「高考」と呼ばれる大学統一入試で選択できる外国語科目の一つになっている。ただ、当然ながら英語が中心で、日本語を選択する人はほとんどいなかった。異変が起きたのは2020年前後からだ。

 中国内の報道によると、高考での日本語選択者は16年に1万人弱、17年に約1万6000人、18年には約2万3000人と徐々に増加した。19年にはこれが約4万8000人、20年には10万人を超え、21年には20万人を突破した。今年6月の高考でも25万人以上(50万人との報道もある)が受験したと報じられている。なぜ急に25倍にも増えたのか。背景となっているのは過熱する受験競争だ。

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中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。