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「出生率0・81」韓国から日本が学ぶべきこと

坂口裕彦・ソウル支局長
子どもたちでにぎわうソウル中心部の広場=2022年9月25日午後、坂口裕彦撮影
子どもたちでにぎわうソウル中心部の広場=2022年9月25日午後、坂口裕彦撮影

 韓国の未来は、社会的にも経済的にも、ぐんと厳しいものになりそうだ。0.81という数字に至った背景をきちんと理解することは、日本の未来に役立つヒントとなるかもしれない。

 0.81とは、韓国が2021年に過去最低を更新した、1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率のことだ。経済協力開発機構(OECD)の加盟38カ国中で唯一、1に届かず、世界最低水準となっている。13年連続で人口が減っている日本の1.30も大きく下回っている。

「核心的な悩み」

 最初に書いたような気持ちが強くなったきっかけは、9月1日、韓国国防省の申範澈(シン・ボムチョル)次官(51)とのインタビューでのやりとりだった。朝鮮戦争(1950~53年)は休戦状態にあり、韓国では兵役は18歳以上の男性国民の義務になっている。だから、「少子化が進めば、兵員確保が難しくなるのではないですか?」と尋ねてみた。

 国防省ナンバー2である申氏の答えは、「核心的な悩みだ」とこちらの予想以上だった。申氏は「30年代以降、兵力資源の急速な減少は避けられない。だから、それに先んじて、人工知能(AI)技術を駆使する軍隊に変貌させる。兵器の自動化や無人化も実施する」と言葉を継いだ。とにかく若者が少なくなるという深刻さがひしひしと伝わってきた。

 それにしても、地理的にも文化的にも近い韓国で、なぜここまで急速な少子化が進んでしまったのか? ソウル大人口政策研究センター長を務める曺永台(チョ・ヨンテ)教授(50)の研究室を9月20日に訪れた。韓国を代表する人口学者として知られる人物だ。

人口密度

 「特別な理由があるのです」。笑顔で迎えてくれた曺さんは、こう切り出した。「韓国政府は少子化対策として、主にフランスやスウェーデンの政策を参考にしながら、子育て環境の改善に多くの予算を投じました。10年前に比べて、はるかに良くなった。それでも、出生率は下がり続けた。なぜなのか?」

 ぐいぐいと引き込まれるような語り口に、思わず身を乗り出す。曺さんは「根本的な原因は、人口密度です。若者の人口が最も大きな都市に集中している比率が高ければ高いほど、その国の出生率は落ちてしまうのですよ」と明かした。つまり、ソウルを中心とした首都圏への一極集中こそが、世界最低水準の出生率をもたらしたというのだ。

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ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。