台湾有事にも備えを 対中抑止力強化する時

佐々江賢一郎・元駐米大使
中国人民解放軍の東部戦区が2022年8月1日に公開した軍事演習の動画=「微信」の公式アカウントから、共同
中国人民解放軍の東部戦区が2022年8月1日に公開した軍事演習の動画=「微信」の公式アカウントから、共同

 日中関係は1972年の国交正常化後、友好関係が続き、2006年に戦略的互恵関係で合意した。18年には安倍晋三首相(当時)が訪中して「競争から協調へ」と打ち出した。現在は、協調・協力と競争、さらに対峙(たいじ)という三つの要素が同時並行的に進む分水嶺(ぶんすいれい)にある時期と言える。

 日中両国は現在も、相手国と争うことを目標にはしておらず、共存する基本原則があると思う。ただ、経済面では競争する側面が強まってきた。中国の軍事的な拡張により関係が変化してきたことも事実だろう。一つの側面だけで評価することはできない。

 安全保障分野において、日本は米国とともに抑止力を高めて力の不均衡を埋めていく努力が必要な時だ。日本は自ら戦争を仕掛ける意思はないが、中国が威嚇した場合、日本は対応できないと中国側が判断するような事態は避けなければならない。自国を守るためのあらゆる防衛的な努力をすべきで、これは敵対的な行為ではない。

 岸田文雄政権は対中関係について「建設的かつ安定的な関係の構築」を掲げている。これは、是々非々外交と言ってもいい。その中には当然、対話が含まれる。中国に威嚇されないような形で、バランスのとれた関係を築くべきだ。

中国の軍事大国化が最も大きな変化

 日中国交正常化後、日中間には大きく分けて三つの変化があった。

 まず第一に、中国が国際経済体制に参入したことだ。中国の改革開放政策によって経済的に発展し、世界経済において中国が大きなアクター(行為者)となった。

 第二の要素は、中国が政治的な民主化の波に乗らなかったということだ。ソ連の崩壊を見て、政治的な自由化をするとこうした結果を招くと受け止めたと思う。その後、独裁主義的、権威主義的な政治体制が強化された。一時は、経済の自由化や開放に従って政治的な民主化も進むのではないかという期待感が日本を含む西側諸国にあったものの、見事に裏切られた。習近平国家主席が指導者となって以降、権威主義体制がより強固になった。

 中国の経済発展と政治体制の独裁化とあいまって、軍事的な肥大化が進んだのが第三の変化だ。これが最も大きな問題である。単に軍事力を増強しているだけではなく、50年までに世界一流の軍事大国を目指すという目標を掲げて地域の緊張を高めている。

 ロシアは冷戦終結後、西側諸国と協力しようと試みたが、結局良好な関係は築けなかった。ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が原因だと主張し、NATOに新規加入した国々からすればロシアの脅威のためだということだろう。同様の事態が東アジアにおいても起きないようにしなければならない。

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 12年、日本政府は民間人が所有していた尖閣諸島の土地を購入した。…

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元駐米大使

 東京大卒。外務省で首相秘書官、アジア大洋州局長、外務事務次官、駐米大使などを歴任。