民主主義の危機とは何か 岸田政権を「総括」する

白井聡・京都精華大学国際文化学部准教授
白井聡氏=山田尚弘撮影
白井聡氏=山田尚弘撮影

 岸田文雄政権がどのような政権だったのか、その権力の本質について総括したい。「気が早い」と思われるかもしれないが、「ミネルヴァの梟(ふくろう)は黄昏(たそがれ)時に飛ぶ」(ヘーゲル)。一部報道によれば、岸田氏は政権運営の意欲を失いつつあるという。

 この見方を裏づける証拠はないものの、政権が何を目指すのかについて、首相のリーダーシップが機能している気配はなく、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の癒着問題についても、国民を納得させるような説明もできていなければ、本質的な解決策を打ち出すこともできていない。つまりは機能不全に陥っている。

 してみれば、仮に岸田政権が今後もしばらく継続するとしても、そこに現れている権力の構造に変化は起きないであろう。岸田氏には何の意思もないまま、現在と同様の状況がダラダラと続く、という成り行きが想像可能である。いま重要なのは、その権力構造の実態をつかむことである。

 思い起こしてみよう。岸田氏は昨年秋の自民党総裁選において、「民主主義の危機」を指摘していた。具体的にどのような危機であるのかほとんど説明されなかったので、曖昧模糊(もこ)とした話なのだが、真面目にとらえるならば以下のように考察することができる。

 戦後日本の民主政治における権力の核心部は、ジャンケンのような三すくみの構造によって成り立っていると言われてきた。核心部を成す三つの要素は、政(政府与党)・官(官僚)・財(財界・大企業)である。

 政は官に対して「任命権・人事権」を持つので優位に立つが、財界からのカネと集票に依存するので逆らえない。官・行政機構は、法令のつくり方ひとつで企業の活動を左右でき、場合によっては業務を停止させる権限さえ持つが、政治には負ける。財界は、官・行政機構には負けるが、政治に対しては優位に立つ。ジャンケンと同じように、三つのうちの一つが絶対優位になることはなく、この三つの力の微妙なバランスによって政治が成り立ってきた。

 そうだとすれば、「民主主義の危機」とは、この三つの力のバランスによる政治の危機を意味するはずである。

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京都精華大学国際文化学部准教授

 1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。著書に「永続敗戦論――戦後日本の核心」(太田出版)、「未完のレーニン――<力>の思想を読む 」(講談社選書メチエ)、「『物質』の蜂起をめざして――レーニン、<力>の思想」(作品社)、「国体論――菊と星条旗」(集英社新書)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)、「主権者のいない国」(講談社)など。