
6月10日午前、首都圏にあるがんの専門病院にこわごわ足を踏み入れると、ロビーは早くも大勢の人でごった返していた。「こんなに多くの人が治療中なのか」と驚くとともに、ここにいる人たちのほとんどががん患者だと思うと、「同志」のような気持ちが湧いた。
専門医「酒とたばこ」
この日はすぐに治療が始まるものと考えていた。それが実際はコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像化装置(MRI)などの予約を入れることが先だった。
他臓器への転移がないかを調べるためにPET(陽電子放射断層撮影)もするし、PETでは検出しにくい胃がんの有無を確認すべく胃カメラによる検査もする。すべて終えるには1週間かかるという。
予約リストにズラリと並んだ検査は、多くが紹介元の大学病院などで受けたばかりのものと重なっていた。その時の検査データは紹介状に添えて提出済みだ。
「検査に時間をかけている間にがんが進行するのでは」と不安になり、二度手間はやめて早く治療を始めてほしいと感じた。とはいえ専門病院として責任を持って患者を引き受ける以上、他の医療機関のデータを基に治療方針を決めるわけにはいかないようだった。
6月17日、検査結果も出そろい、ようやく初診に臨むことができた。主治医に決まったのは快活でサバサバした中堅の女性医師、頭頸(とうけい)がんの専門医だ。
「(紹介元の)見立て通り、下咽頭(いんとう)がんですね。首リンパ節への転移はありますが、遠隔転移はありません」とやけに明るい調子で言う。下咽頭がんは中高年男性に多く、酒とたばこが最大のリスク要因だといい、「思い当たることはあります?」と尋ねられた。
私はウイスキーやウオッカをずっとストレートで飲んできた。のどが焼けるような刺激が好きで、「原因はこれか?」と思い至った。
それでもあきれられそうで言い出せず、「新型コロナウイルスでもう長く酒を飲む機会はなかったんですがねえ」などと釈明を口にしていた。一方、たばこは20年近く前にやめたんです、と胸を張ったら、「やめても過去に吸った累積の本数が影響するんです」とあっさり切り返された。
早かった発見
さて、肝心の検査結果は――。
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