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「習1強」の中国は強権体制を世界に広げるのか

米村耕一・中国総局長
習近平指導部10年の成果をアピールする展示会場で、経済成長などの数値を記載した「奇跡号」=北京市内で2022年10月12日、米村耕一撮影
習近平指導部10年の成果をアピールする展示会場で、経済成長などの数値を記載した「奇跡号」=北京市内で2022年10月12日、米村耕一撮影

 「すごい勇気だ」。ツイッター上で中国語のコメント付きで共有されている写真に気がついたのは13日の昼過ぎだった。幹線道路が交差する陸橋の上から「文革(文化大革命)はいらない、改革がほしい」「領袖(りょうしゅう)はいらない、投票用紙が欲しい」などと、3期目に入る中国共産党の習近平総書記(国家主席)の権力強化に不満を示す横断幕を掲げている写真だ。

陸橋に増えた警備

 当初は、いつの写真なのか、本物なのか、よく分からなかった。共産党大会直前の厳戒態勢が続く中で、こんなことが可能だろうか、とも思った。そうこうするうちに同じ写真を見たらしい中国の友人から連絡が来た。「今朝の出来事らしいぞ」。タクシーを飛ばして現地に行くと、横断幕はすでに撤去されていたが、陸橋付近には20人以上の制服警官が立ち、普通の雰囲気ではなかった。歩いているとすぐに止められ、身分証の提示を求められた。記者だと分かるとここに来た理由などを聞かれたが、深くは追及されなかった。先方も理由は言わなくても分かっていたのだろう。

 その日の夕方、自転車で移動していると北京市内のあちこちの陸橋に警備担当者が立ったり、公安車両が近くに止まっていたりするのに気がついた。横断幕の再発を防ぐ対応なのは明らかだった。

 大きな行事がある際、テロなど不測の事態を避けるため警備が強化されるのは世界中、どこでも同じだ。しかし、横断幕のために大量の警備担当者が動員されるというのは自由民主主義国では考えられない。そもそも政府や指導者を批判する横断幕が大きなニュース、話題になること自体がない。日常生活ではそれほどの実感はないのだが、この日はすでに拘束されたとされる横断幕を設置した男性の境遇を思い、中国の「強権体制」の厳しさを改めて感じた。

 それにしても、こうした体制が世界に広がっていくとしたらどうだろう。

 そん…

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中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。