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「ゲリラ戦法」? 北朝鮮の弾道ミサイル発射

坂口裕彦・ソウル支局長
朝鮮戦争を再現した銅像を展示する「智異山パルチザン討伐展示館」=韓国南部・慶尚南道山清郡で2022年10月8日、坂口裕彦撮影
朝鮮戦争を再現した銅像を展示する「智異山パルチザン討伐展示館」=韓国南部・慶尚南道山清郡で2022年10月8日、坂口裕彦撮影

 いつ、どこから、何を仕掛けてくるかわからない。不気味な相手だと思わせてこそ、自らを大きく見せることができる。今年に入ってから異例の頻度で、弾道ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮はそんなふうに考えているのではないか。

 ふと思いをめぐらせたのは、10月8日に韓国南部・慶尚南道(キョンサンナムド)の山清(サンチョン)郡にある「智異(チリ)山パルチザン討伐展示館」を訪れた時だった。智異山は標高1915メートル。韓国では2番目に高い。智異山を中心にして、中山間地が広がる地域では、ちょうど名産の柿がたわわに実っていた。

夜、予告もなしに

 智異山周辺は、朝鮮戦争(1950~53年)の前後で、北朝鮮に呼応した人々がゲリラ活動を展開したことで知られる。韓国軍や警察は掃討作戦を実施。最後に残った2人が射殺されたり、捕らえられたりして、ようやく終結したのは63年だった。展示館は掃討作戦を紹介したり、かつてのアジトを再現したりして、当時を今に伝えている。

 なぜ、朝鮮戦争が休戦してから約10年間も、ゲリラ活動は続いたのか。同館の丁青守(チョン・チョンス)さん(70)は「智異山が織りなす中山間地を利用し、たくさんのアジトを作ることができたからだ。そして、敵は夜にやってくる。夜の闇に紛れて、民家をいきなり襲って、住民たちを怖がらせ、食料を奪っていったのです」と解説してくれた。案内文をみると「韓国軍の位置や兵力、火力などの情報収集を十分に行ったうえで、食料などを奪う奇襲戦の計画を立てていた」とも書かれていた。

 敵は夜、予告もなしにやってくる――。はからずも丁さんの言葉をかみしめることになったのは、皮肉なことに北朝鮮が翌9日未明、日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射し、たたき起こされたからだ。今年に入ってからあれだけミサイルを発射したにもかかわらず、深夜時間帯の発射はなかった。山清郡の宿舎で、まだぼんやりした頭で、速報記事を書き進めることになり、「人は想定外のことが、突然起きると混乱してしまう」と身をもって感じた。

裏をかく

 ソウルに戻ってから、21世紀軍事研究所の柳成燁(リュ・ソンヨプ)専門研究委員(41)に取材を申し込んだ。10月9日未明の時点で「北朝鮮はいつ、どこからでも弾道ミサイルを発射できるという実戦能力を誇示している。発射時間も、韓国軍が5日未明、地対地ミサイルの発射に失敗した時間帯を選んだようだ。韓国軍よりも戦術運用能力が優れていると見せようとした挑発だ」と、聯合ニュースの取材にしっかりコメントしていたからだ。北朝鮮が7回目の核実験の準備の最終段階に入ったとされていることについても聞きたいと思った。

 10月21日に会った柳さんは大柄な風貌と、小さな声で話す仕草の落差が印象的な人だった。「コメントが早かったのは、…

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ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。