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米中間選挙の真の勝者は

西田進一郎・北米総局長
中間選挙の投票所の外で記者団の取材に答えるトランプ前大統領=米南部フロリダ州パームビーチで8日、ロイターduengo
中間選挙の投票所の外で記者団の取材に答えるトランプ前大統領=米南部フロリダ州パームビーチで8日、ロイターduengo

 11月8日に投開票された米中間選挙の勝者は誰か。民主党のバイデン大統領(79)は下院を失い、政権運営はさらに難しくなる。共和党も、期待していた大きな「赤い波」は起きず、勝利の実感は薄い。波を起こしたのは自分だと主張し、2024年大統領選への出馬表明の弾みにしようと考えていたトランプ前大統領(76)もあてが外れた。真の勝者は、南部フロリダ州のロン・デサンティス知事(44)かもしれない。

激戦州で異例の圧勝

 共和党のデサンティス氏は8日夜に早々と再選を確実にし、「我々は選挙に勝ったというだけでなく、政治地図を書き換えた」と勝利宣言した。フロリダは大統領選のたびに民主、共和両党の勢力が拮抗(きっこう)する「スイング・ステート(揺れる州)」の一つ。だが、デサンティス氏は民主党の強固な地盤にも浸透し、対立候補の同党、チャーリー・クリスト氏(66)を圧倒。得票率差は異例の約20ポイントに達した。勝利宣言の写真は、地元紙だけでなく、ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙の1面も飾った。

 フロリダといえば、邸宅「マララーゴ」を持つトランプ氏の地元だ。16年大統領選はもちろん、敗北した20年大統領選でもトランプ氏が制した。だが、米サフォーク大などが9月に同州で実施した世論調査では、次期大統領選候補として共和党支持層で最も支持を集めたのは、トランプ氏でなくデサンティス氏だった。フロリダは「デサンティス氏の州」に変わりつつある。

経済優先と「文化戦争」

 知事選を前にした10月下旬の土曜日午後。同州オーランドの集会会場では、開始1時間前にもかかわらず長い列ができていた。デサンティス氏は、自身のグッズである帽子を投げるパフォーマンスをしながら登壇した。聴衆に「自由の国フロリダに住んでいて、良かったと思いますか」と呼びかけると、支持者らは「自由なフロリダにするため戦う」と書かれたボードを掲げたり、手を突き上げたりして熱狂的な大歓声で応えた。

 IT企業で働くアダム・カラバチさん(42)に魅力を尋ねると、新型コロナウイルスへの対応を挙げた。デサンティス氏は医療関係者の警告を無視して外出禁止令を早期に解除し、マスク着用やワクチン接種の義務化に強硬に反対した。カラバチさんは「他州では人々は働くこともできなかった。マスクもワクチンも自分で選択する権利がある。彼はフロリダで自由を鳴り響かせてくれた」と絶賛した。

 信条や価値観がぶつかる「カルチャー・ウォー(文化戦争)」も仕掛けてきた。教育現場における親の権利を強く支持し、保守的な政策と州法を次々と主導した。小学3年生までは学校で性的指向や性自認の問題を考えさせることを禁じる法、いわゆる「ゲイと言うな法」もその一つだ。

 反対する人やリベラル派には攻撃的な姿勢を取る。…

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北米総局長

 1975年生まれ。97年に入社し、岡山、神戸などの支局や東京社会部を経て2005年から12年まで政治部。その後ワシントン特派員や政治部デスク、政治・安全保障担当の論説委員を経て22年4月から現職。