中国ナショナリズムのはけ口と「レッドライン」

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
握手をする中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領=インドネシアのバリ島で2022年11月14日、AP
握手をする中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領=インドネシアのバリ島で2022年11月14日、AP

 バイデン米政権で初めての対面での米中首脳会談がインドネシア・バリ島で行われた。今回の会談でも米中間の「レッドライン」が話し合われたという。

 レッドラインを越えれば軍事的な対抗措置をとるという意味なのだろうが、軍事的な野心を持つ国はどの国であれ、米国の軍事的対抗行動を恐れ、それが米国の「抑止力」となった。こけ脅しではない抑止力を維持するために米国は軍事的介入を頻繁に行ってきた。

 その米国の抑止力に重大な疑問符が付くこととなった。それはウクライナ侵略の野心を隠さなかったロシアと向き合い、米国は軍事介入するつもりはないと言い放ったことだけに起因するわけではない。

 ブッシュの中東における二つの戦争がもたらした負担があまりに大きかったが故に、オバマ、トランプ、バイデンと、ブッシュ後の大統領はもう米国は「世界の警察官」の役割は果たさないことを明確にした。

 北大西洋条約機構(NATO)や日米安保条約など同盟国と一緒に行動する場合を除き、米国の軍事力に依存する時代は終わったということなのだろう。もちろん、同盟国との関係だけではなく、米国の利益が直接的に脅かされる場合には米国は引き続き行動するだろう。

中国の台湾への軍事行動に米国は介入するか

 中国とのレッドラインが台湾にあることは明らかだ。中国が台湾の統一に向けて一方的な行動をとる場合、中国はレッドラインを越えたとして米国は軍事行動をとるだろうか。台湾は米国の同盟国ではなく、台湾を防衛する条約上の義務はない。

 しかし、米国は国内法(台湾関係法)で台湾の防衛に協力することを定め、もし中国が軍事的行動を起こす場合にはしかるべき措置をとる、としている。

 すなわち、中国と国交正常化に至った時、台湾は中国の一部とする中国の主張を了知し、国内法で米国の立場を明らかにしたのである。

 米国は台湾防衛のため武器輸出を行っているが、台湾海峡の軍事バランスを念頭に最先端の武器の輸出は控えている。また台湾の独立を支援することはないとの立場を維持している。

 条約上の義務ではなくとも米国は中国の台湾侵攻は米国の枢要な利益を害すると見て軍事的対抗措置をとるのだろう。中国が台湾を軍事的に統一することはアジアにおける米中の軍事バランスを著しく変えることとなり、米国のアジアにおける戦略に著しい支障となるからだ。

 米国が自身の軍事戦略を大幅に変更し、日本や韓国、ひいては第7艦隊の前方展開戦略を撤回しない限り、米国の意図は明らかであるし、中国も十分承知しているだろう。

中国は台湾統一に踏み切るか

 問題は…

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日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。2021年3月よりTwitter開始(@TanakaDiplomat)。YouTubeチャンネル(@田中均の国際政治塾)。