ありえない「負担なしの給付」 インフレ対策に財政拡大という矛盾

八代尚宏・昭和女子大特命教授
記者会見で経済対策について説明する岸田文雄首相=首相官邸で2022年10月28日、幾島健太郎撮影
記者会見で経済対策について説明する岸田文雄首相=首相官邸で2022年10月28日、幾島健太郎撮影

 11月8日に閣議決定された第2次補正予算の規模は29兆円にのぼり、その8割が赤字国債の発行で賄われる。コロナ禍が一応の収束を迎えて、失業率も2.5%程度のコロナ前の人手不足の水準に低下している。これまで抑圧されていた消費需要が盛りあがり始めている時期に、なぜこれだけ大規模な補正予算が必要なのか。

 このうち、「物価高騰・賃上げへの取り組み」として7.8兆円が盛り込まれた。内容は、エネルギー価格の高騰に対する「激変緩和措置」や中小企業への支援のための補助金である。インフレ対策として財政を拡大するのは逆効果だ。

 本来のインフレ対策であれば、欧米諸国のように金融引き締めで資金需要を抑制することが本筋だ。そうすれば金利水準の引き上げによって、すでに引き締めている欧米諸国との内外金利差が縮小する。その結果、現行の大幅な円安が是正され、輸入物価高騰によるインフレの要因も軽減される。

 インフレ対策の主たる責任を担う日本銀行は、消費者物価の上昇率が4月以降、10月までの半年間で、2~3%台に達しても動かない。これは海外インフレによる一時的なもので、本来の賃金上昇を伴った政策目標としての2%インフレではないとして、従来の金融緩和スタンスを固持している。しかし、日本の賃金上昇率の低さは、雇用安定の代償など、構造的な要因も働いており、金融緩和で賃金を引き上げられるのだろうか。内外経済状況の変化に応じた、現実的な出口戦略を示す時期に来ている。

 もともと、政府と日銀との間のアコード(政策協定)では、日銀が大幅な金融緩和で経済を支えている間に、政府が生産性向上のための構造改革を進めることで、持続的な経済成長に結びつけるはずだった。

 しかし、政府は、その約束をほとんど実現せず、代わりに人気取りのための給付金などで財政赤字を垂れ流してきた。この結果生じた膨大な赤字国債を引き受ける財政ファイナンスが、これまでの日銀の役割であった。これは政府の放漫財政に強く抵抗し、首相まで交代させた英国の中央銀行と比べると大きな違いだ。

価格抑制のための補助金

 政府は物価上昇への人々の不満を防ぐために、昨年末よりガソリンの価格抑制のための事業者補助金を暫定的に設けた。補正予算では、これをさらに延長するとともに、新たに電気・ガス代にも対象を拡げるなどの財政拡大政策を行った。これは急速な価格上昇を防ぐための激変緩和措置というが、その出口戦略は不透明で、際限なく繰り返される恐れがある。

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昭和女子大特命教授

 1946年生まれ。経済企画庁、上智大教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大教授などを歴任。著書に「日本的雇用・セーフティーネットの規制改革」(日本経済新聞出版)「脱ポピュリズム国家」(同)「シルバー民主主義」(中公新書)など。