
政府は11月8日、物価高対策を中心とした経済対策を盛り込んだ2022年度第2次補正予算案を閣議決定した。その規模は財源の裏づけもなく約29兆円と大きく膨らんだ。国会の事前議決をせずに支出でき、財政民主主義の精神に反する予備費も4兆円を超え、財政規律の緩みに拍車がかかりそうだ。しかも約8割は借金である国債発行で賄う。
支援すべき対象は
一晩で「ウクライナ情勢のための予備費」を創設するなど、あっさりと4兆円を積み上げ、総額ありきの議論には低迷する支持率にテコ入れする狙いがあるというマスコミ報道もある。
緊急時の公的支援は否定しない。ロシアのウクライナ侵攻を背景とした資源高による今回の急激なエネルギー高騰に、一定の措置は必要である。ただ、厳しい財政状況の中で一律の非効率な手法であるバラマキでなく、本当に支援が必要な低所得層世帯や中小・零細企業など特に打撃を受ける対象に絞るべきだ。真に支援すべき対象をもっと見極め、そこに十分な手当てをすべきである。
対策の主目的でもある電気・ガス料金の軽減は、価格上昇が沈静化しないまま軽減策を止めるのは難しく、財政負担は増え続けることとなり、いつ終了するかの出口も明示していない。すでに実施しているガソリン補助金のための予算は年末までに3兆円を超える。政府には政策の縮小、そして停止に向けた出口戦略の明確化が求められている。
世界最悪水準の公的債務残高
現在多くの先進国は、新型コロナウイルス対策で傷んだ財政の再建に取り組みだしている。しかし、わが国は長年にわたって「財源なき財政出動」がくり返され、公的債務が累積している。22年度末の国債残高は1026兆円と国内総生産(GDP)の倍近くに達する見込みだ。公的債務残高のGDP比は263%と世界最悪の水準となっている。
今回の補正予算も当然のことながら、さらなる財政悪化を招く。厳しい財政事情の中、国債発行という借金頼みの多額の財源を使った補助金政策は持続可能ではない。政策の優先順位も明らかにされず、将来世代に負担を転嫁しているだけだ。
英国・トラス政権の看板政策が市場の混乱を招き、僅か44日で幕を閉じたことは記憶に新しい。トラス政権は9月下旬、電気・ガス代の高騰を抑制するための巨額の財政を投じる経済政策や大型減税を表明した。財源は日本と同様の国債の発行だ。
この政策に財政悪化などを懸念した市場は、「財政再建の放棄」とみなし、英国債の金利は急上昇し、通貨ポンドも対ドルで等価割れに迫る低水準まで急落。株安も重なり英国市場では債券、通貨、株のトリプル安に陥った。
結局、政府は大型減税案をほぼ撤回し、トラス氏は首相を辞任。…
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