韓国で活発化する「独自核武装論」

大澤文護・千葉科学大学教授
2022年11月18日に発射されたミサイル。朝鮮中央通信は、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」型だと報じた=朝鮮中央通信が2022年11月19日に配信・ロイター
2022年11月18日に発射されたミサイル。朝鮮中央通信は、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」型だと報じた=朝鮮中央通信が2022年11月19日に配信・ロイター

 韓国で独自核武装の可能性を協議する専門家会議が開催されるなど、対北朝鮮強硬論が噴出している。

 北朝鮮は9月8日に開催した最高人民会議で米国と日韓の米軍基地に対する核先制攻撃の可能性を示唆する法令を採択し、その後、今までにない頻度でミサイル発射を繰り返している。

 東アジアの軍事情勢を大きく変える可能性を秘めた韓国の独自核武装を求める声がさらに強まり、現実性を帯びるのかどうか。論議の内容を分析することで、その行方を考えてみた。

いつでも発射できる体制

 今年初めから現在(11月18日)まで、北朝鮮は巡航ミサイルを含め34回のミサイル発射を繰り返し、発射総数は少なくとも67発に及ぶ。

 今年7月に防衛省が発表した資料「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について」によると近年、弾道ミサイルの発射数が多かったのは2016年(23発)、19年(25発)だった。

 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の父で「先軍政治」を国家指導方針に掲げた金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代に発射された弾道ミサイルは計16発だったことを考えると、金正恩体制になってから、いかに多くのミサイル発射を繰り返しているかが分かるだろう。

 北朝鮮は今年なぜ、これまで以上の頻度でミサイル発射を繰り返しているのか。その理由は9月8日の最高人民会議で採択された「朝鮮民主主義人民共和国核戦力政策に関する法令」の内容から推測可能である。例えば法令には、こんな文言が含まれている。

 「国家核戦力に対する指揮統制システム(筆者注:北朝鮮首脳部)が敵対勢力の攻撃で危険にひんする場合」は「事前に決まった作戦方案に従って挑発原点(敵が攻撃を開始する場所)と指揮部をはじめとする敵対勢力を壊滅させるための核打撃が自動的に即時に断行される」

 これは米国がイラクやリビアで指導者殺害を狙って実行した「斬首作戦」を北朝鮮幹部対象に計画すれば、北朝鮮は直ちに米国本土や日韓の米軍基地を核先制攻撃する意思があることを意味している。

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千葉科学大学教授

 1957年生まれ。80年毎日新聞社入社。97~2002年ソウル特派員、04~08年マニラ支局長、09~11年ソウル支局長、11~13年毎日新聞東京本社編集編成局編集委員。15~16年韓国・世宗研究所客員研究委員。13年10月から千葉科学大学危機管理学部教授・博士(危機管理学)。天理大学客員教授。NPO法人東アジア相互理解促進フォーラム理事長。著書に「北朝鮮の本当の姿がわかる本」(こう書房)、「金正恩体制形成と国際危機管理」(唯学書房)など。