反撃能力 本当の理由は「中国の核ミサイル」

伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授・元海将
中国建国70年の軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイル「東風41」=北京の天安門前で2019年10月1日、共同
中国建国70年の軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイル「東風41」=北京の天安門前で2019年10月1日、共同

 日本のミサイル防衛はこれまで、ミサイルを撃たれても全て撃ち落とす体制により相手にミサイル使用を思いとどまらせる「拒否的抑止」だった。

 しかし、北朝鮮や中国のミサイル技術が高度化して迎撃が困難となる中、ミサイルを撃ったら反撃されて痛い目に遭うと思わせる「懲罰的抑止」が重要になっている。

 抑止力を高めるためにこそ相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)が必要だ。ミサイルの長射程化など、防衛体制を早期に強化する必要がある。

念頭にあるのは中台紛争

 日本政府は表向き、念頭にあるのは北朝鮮の弾道ミサイルだと説明している。しかし北朝鮮の対米国本土や対グアム用の長距離ミサイルは、ミサイルを実用高度で太平洋に発射した場合、北朝鮮からは遠方すぎて、着弾地点も飛翔(ひしょう)中のデータも収集できない。したがって北朝鮮は、意図的に真上に高高度で発射し、日本海内に着弾させる方法でしか性能確認試験ができない。

 一方、短距離ミサイルは対韓国用であり、ここ数年で新たに3種類のミサイルの開発に成功し、種々の発射方法を試している。極超音速と喧伝(けんでん)したミサイルもまだ実験段階だ。

 現時点で想定される北朝鮮による日本攻撃とは、すでに「第2次朝鮮戦争」が始まり、北朝鮮が在日米軍からの援軍を阻止するため、従来配備しているスカッドERやノドンミサイルで日本本土に撃つことにほかならず、北朝鮮の軍事技術動向は日本にとっては従来どおりといえるのだ。

 今回日本が反撃能力を保有する本当の理由は、対中国用に必要ということだ。中国の習近平共産党総書記(国家主席)が3期目入りし、中国統一をミッションとして掲げ「武力行使の放棄は約束しない」と発信しており、5年以内に台湾有事が発生する可能性が高まっている。

 中台紛争が起きた場合、中国は日米両国に対して「関与するなら核ミサイルで攻撃する」という脅しをかけてくるだろう。…

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金沢工業大学虎ノ門大学院教授・元海将

 1958年生まれ。在米国防衛駐在官、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。