命をないがしろにしてきた日本の入管

安田菜津紀・フォトジャーナリスト
安田菜津紀氏=後藤由耶撮影
安田菜津紀氏=後藤由耶撮影

 一体あのスローガンは何だったのか。岸田文雄首相が掲げてきた「聞く力」だ。

 2021年に廃案となった政府の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案と、骨格の変わらないものが再び提出されようとしているという。あの時、なぜ多くの反対の声があがったのか、まるで理解が及んでいない。もしくはその非人道性を分かっていながら押し通そうとしているのだろうか。今求められているのは、市民の声を「聞き流す力」ではない。

政府案の何が問題だったのか

 そもそもあの政府案は何が問題だったのかを、改めて振り返ってみたい。

 例えば「仕事を失ってしまった」「生活に困難を抱えて学校に行けなくなった」「パートナーと離婚した」など、日常生活を送っていれば起こりえるさまざまな「変化」によって、日本国籍以外の人々は、日本に暮らすための在留資格を失ってしまうことがある。

 それでもなお、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰れない事情を抱える人たちが国外退去の命令に従わない(従えない)場合、保護したり、在留資格を付与したりするのではなく、1年以下の懲役または20万円以下の罰金の対象とする項目が法案には盛り込まれていた。

 また法案では、(審査請求等の不服申し立て手続きも含めて)法相が難民不認定の結論を2回出してしまえば、以降はその難民申請者の強制送還が可能になってしまう仕組みとなっていた。つまり、何らかの事情を抱え、3回以上難民申請をせざるをえなかった外国人が、迫害の恐れのある国に帰されてしまう可能性があるということだ。

開いていない難民認定の門

 日本の難民認定の門は、やっと糸が通る隙間(すきま)程度にしか開いていない。21年の難民認定者数は74人、難民認定率は0.7%と、1%を下回り続けてきた。複数回申請せざるを得ない状況を作り出しているのは、ほかでもなく日本政府だ。ちなみに10~21年の間に難民認定された377人のうち、7%にあたる25人が複数回申請の末に認定されている。

 こうしてさまざまに「帰れない事情」を抱えた人たちが在留資格を失い、長期の入管収容に苦しむことも少なくない。

 人を施設に収容するということは、身体を拘束し、その自由を奪うことであり、…

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フォトジャーナリスト

 1987年生まれ。認定NPO法人Dialogue for People 副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。著書に「故郷の味は海を越えて―『難民』として日本に生きる―」(ポプラ社、19年)、「写真で伝える仕事―世界の子どもたちと向き合って―」(日本写真企画、17年)、「君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―」(新潮社、16年)、「それでも、海へ―陸前高田に生きる―」(ポプラ社、16年)など。