非正規公務員に頼る自治体の「やりがい搾取」

上林陽治・立教大特任教授
寸劇で会計年度任用制度の問題点をアピールする集会参加者=文京区で2022年10月2日、東海林智撮影
寸劇で会計年度任用制度の問題点をアピールする集会参加者=文京区で2022年10月2日、東海林智撮影

 非正規の図書館職員の女性がツイッターで始めた署名運動が話題を呼んだ。けれども地方の非正規公務員の実態はまだ十分に知られているとはいえない。

いつのまにか急速に

 地方公務員の非正規化は急速に進んだ。図書館職員の例でいえば1987年の統計をみると1割が非正規で9割が正規だった。これが5年ごとに10%ずつ逆転し、現在は2割が正規で8割が非正規になっている(文部科学省調査より)。

 これだけ急速に進んだにもかかわらずそのことが世の中ではあまり認識されていない。理由の一つは、非正規化を進めている人たちにとって不都合な真実だからだ。

 地方公務員数のピークは94年の約328万人だ。そこから約15%、約48万人減って約280万人(2021年)になっている。しかし、その間、地方公務員の仕事はむしろ増えている。

 生活保護受給世帯が増え、児童虐待も増えている。生活困窮者の自立支援、消費生活相談、DV相談など新しい仕事も増えている。国の政策に従って定員を減らしたが、仕事は増えるので正規を非正規に切り替えていったからくりがある。

 政策としては仕事に対して人を付けることが普通の考え方だ。仕事が増えているのに人を減らすことが先に立っているためにひずみが生じ、それを埋めるために非正規が使われてきた。政策失敗の事例集に載せるべき事態になっている。

 総務省が本格的に調査をしたのは05年になってからだ。92年には自治省(現総務省)の公務員部長が自治労の調査を使い、ひとごとのように「ある調査によると20万人いるらしい」(地方公務員月報)と言っている。自治体が非正規公務員に頼っている実態を認めたくない人たちがいる。

 もう一つは本音の問題だ。

 地方のように良質な雇用が少ないところでは公務員は最大の雇用先だ。学会で非正規公務員の実態を報告し、正規に切り替えるべきだと指摘したところ、ある地方国立大学の教員が「そんなことをしたらうちの学生があぶれる」と発言した。

 ある大学では学生から「今いる非正規公務員を正規にしたら私は就職できなくなる」と言われたこともある。

低賃金と不安定雇用

 非正規公務員は現在(20年)は統計だけでみると約110万人、ほぼフルタイム、雇用保険に加入できるような人に限ると約70万人いる。

 処遇でいえば、図書館職員でみると全国平均で非正規の年収は約201万円(20年4月1日現在)で正規の3割だ。保育士でみると非正規は222万円(同)で正規の4割だ。あまりにも処遇に差がありすぎる。

 もう一つ…

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立教大特任教授

 1960年生まれ。国学院大学院経済学研究科博士課程前期修了。地方自治総合研究所研究員。主な著書に『非正規公務員のリアル』『非正規公務員の現在』『非正規公務員』(いずれも日本評論社)など。近著に『格差に挑む自治体労働政策』(共著、日本評論社、2022年10月)がある。