女性差別、障がい者差別……。これまでは、理由に応じて、その時々に対応してきました。
しかし、差別の実態を見ればみるほど、お互いが絡み合っています。本当に分けられるものなのか。根っこには同じ問題があるのではないか。
元国連女性差別撤廃委員会委員長の林陽子弁護士は、個別の差別だけをみていたのでは対応しきれなくなっていると言います。【聞き手・須藤孝】
◇ ◇ ◇
傘と網
「包括的差別禁止法」が日本に必要だと考えている。
包括的とは、人種差別や性差別や障がい者差別などをすべて傘のなかに入れる。また差別が起こる場所についても、職場でも地域でも学校であっても家庭であっても、社会のすべてに網をかける。理由も場所もすべて含むから包括的だ。
世界では複合的な差別が強く意識されるようになっている。背景には、この20年ほどの間にジェンダー平等の問題の重要性にさまざまな人権運動が気がついてきたことがある。
たとえば障がい者の問題でも、障がい者の男性と障がい者の女性の間に就労率に差があり、賃金格差がある。障がい者差別と女性差別が重なり合っている。
貧困問題でも男性が抱えている問題と女性が抱えている問題は異なっている。
貧困は所得が低いことだけが原因ではない。たとえば離婚の際の財産分与が平等ではない、あるいは男性が養育費を払わない。女性は育児や介護のためにフルタイムで働けず、低賃金になり、それが老後の年金額に影響する。さまざまな要因が重なって女性が貧困に陥る。
「障がい者」「女性」という個別の差別だけをみていたのでは対応しきれなくなっている。ジェンダーの問題を解決しない限り、あらゆる差別の問題は解決しないことに、多くの人が気がつき始めた。
バックラッシュ
また、2000年代以降、ジェンダー平等やマイノリティーへの攻撃(バックラッシュ)が広がっている。右派の動きに対抗するためにも…
この記事は有料記事です。
残り1046文字(全文1833文字)