核兵器をめぐる秩序が動揺する今 原爆慰霊碑に核兵器保有国の首脳が頭を垂れた

岩間陽子・政策研究大学院大学教授
原爆慰霊碑に献花した(左から)米国のバイデン大統領、岸田文雄首相、フランスのマクロン大統領=広島市中区で2023年5月19日(外務省提供)
原爆慰霊碑に献花した(左から)米国のバイデン大統領、岸田文雄首相、フランスのマクロン大統領=広島市中区で2023年5月19日(外務省提供)

 広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)が終わった。

 もちろん、G7議長国としての役割は年末まで続くわけで、ここからさらに、具体的努力を積み重ねてもらいたい。

 しかし、イベントとしてのG7広島サミットは、長く人々の記憶に残る、歴史的なサミットになったと思う。

核軍縮に向けて努力を続ける義務

 何よりも、原爆慰霊碑の前に世界の指導者たちが集まり、「過ちは繰返しませぬから」という誓いの前に献花をしてこうべを垂れた。その映像が世界中に発信されたことの意味は、大きかったと思う。

 核軍縮は一歩も進んでいない、という批判も聞かれたが、世界の現状の中で、核を使ってはいけないという規範を再確認できたことは、確実な成果だ。

 集まった首脳たちの中には、複数の核兵器保有国の首脳がいた。核兵器は、現実にいつでも使われ得る兵器である。ロシアや北朝鮮は、現に使用の威嚇や示唆をしている。

 日本も頼っている核の抑止力は、実際に核が使われ得るという前提の上に成り立っている。その上で、首脳たちが広島に参集して、平和公園で誓いを新たにしたということは、私たちに、安易に核に依存する方向に戦略を変更せず、地道に核軍縮に向けての努力を続ける義務を課した。

 核兵器をめぐる秩序が動揺している今だからこそ、世界に対して明確なメッセージになった。

 ウクライナのゼレンスキー大統領がやってきたのが、ヒロシマであったことは意味があったと思う。

 ウクライナは、…

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政策研究大学院大学教授

 京都大学法学部卒、同大学院博士後期課程修了。京都大学博士。在ドイツ日本国大使館専門調査員などを経て、2000年政策研究大学院大学助教授。09年同教授。専門は国際政治学、欧州外交史、安全保障。著書に、「核の一九六八年体制と西ドイツ」(有斐閣、21年、日本防衛学会猪木正道賞正賞)、「ドイツ再軍備」(中央公論社、1993年)など。