キャンセルカルチャーを奪い返す 「表現の自由戦士」は正しいか

五野井郁夫・高千穂大学経営学部教授
五野井郁夫氏=宮本明登撮影
五野井郁夫氏=宮本明登撮影

 弱者の武器であったキャンセルカルチャーが、リベラルな価値の攻撃に使われています。

 困難を抱える若い女性を支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」への攻撃など、女性への個人攻撃も起きています。

 本来の意味を取り戻すにはどうすればいいか。高千穂大学教授の五野井郁夫さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇

 ――もともとの意味はなんでしょうか。

 五野井氏 力なき人々にとっての最後の手段としてボイコット運動があります。インド独立運動の英国商品不買や、米国公民権運動ではローザ・パークスの「バス・ボイコット」(※)がありました。

 情報発信の主体がユーチューバーのようなインターネット上のサービスに移るなかで、抗議の対象も国家や企業だけではなく、情報を発信する個人や現象、価値観へと変化しつつあります。

 キャンセルカルチャーそれ自体は伝統的なボイコット運動の延長線上にあります。

 ――ネットの発達で大きな影響力を持つようになりました。

 ◆#MeTooに象徴される、ハッシュタグ・アクティビズムが盛んになりました。社会のマジョリティー側がもつ特権に異議を申し立てます。

 フェミニズムでいえば、男性中心主義の秩序に抗議します。キャンセルカルチャーは、メジャーな価値観のなかでは取り上げられづらい人々の声を、SNSを通じて効果的に発信するものです。

 ――日本では、あまりそのようには思われていません。

 ◆本来ならばキャンセルされる側の人たちがキャンセルカルチャーの手法を用いる逆転現象が起きています。

 たとえば、女性差別的な表現を守ろうとする、いわゆる「表現の自由戦士」と言われる人たちはその典型です。

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高千穂大学経営学部教授

 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は政治学・国際関係論。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。近著に『山上徹也と日本の「失われた30年」』(共著、集英社)