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「歴史の証人」の牛たち=永山悦子
2023/3/20 13:10 932文字見たこともない惨状だったという。飢えた家畜が次々と死にゆこうとしていた。2011年5月2日、福島県南相馬市でのことだ。 林良博・国立科学博物館前館長は、議員視察の案内をしていた。東京電力福島第1原発事故が起き、4月22日から原発の半径20キロ内の警戒区域は立ち入りが制限された。農家はえさやりに入る
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夜明け前の暗闇の中で=永山悦子
2023/3/13 13:41 947文字「宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、過去の経験から活動を改善し、目標を達成するよう努めなければならない」「JAXAは、打ち上げが承認される前にはすべての潜在的な不具合に対応できているような、ミッションサクセス文化を推進すべきである」 2005年3月、JAXAの外部諮問委員会がまとめた報告書だ。委
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不合格になっても=永山悦子
2023/3/6 13:10 923文字7418人。 この数字は、日本で一般から宇宙飛行士を募集した試験を受け、不合格になった総数だ。1983年以降、6回の募集で計13人が選ばれた陰で、大勢が涙をのんだ。 先月末、6回目の試験を突破した2人が発表された。13年ぶりとなった募集では、学歴や専門分野が不問となるなど、門戸が広がった。その結果
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夢をつなぐ者たち=永山悦子
2023/2/27 13:01 941文字国際宇宙ステーション(ISS)で以前、「朝」に流れる曲があった。「ウエークアップコール」と呼ばれ、宇宙飛行士や家族が選ぶ。ISSは地球を90分で1周する。起床時間に加え、24時間ごとの「朝」を意識させる効果があった。 2008年にISSに滞在した星出彰彦飛行士は、アニメ「銀河鉄道999」の挿入歌「
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医療プレミア特集
「思わぬ副作用への対応が重要」 安全性チェックに学会が動き出した光免疫治療の可能性と課題
2023/2/21 04:30医療プレミア 3354文字薬と光を使い、がん細胞をピンポイントで治療する「光免疫療法(*1)」が公的医療保険の適用となり、一般の患者が使えるようになってから2年たつ。保険適用になったのは、楽天メディカルが薬などを販売する「頭頸部(とうけいぶ)アルミノックス治療」だ。新しい治療法では思わぬ副作用が起きる恐れもあり、日本頭頸部
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除染土の行方=永山悦子
2023/2/20 13:06 942文字久しぶりに表紙を開いた本がある。以前も紹介した「福島 環境再生 100人の記憶」だ。環境省が、原発事故後の福島県内の人たちに思いを聞いたものだ。 事故後、放射性物質の影響をなるべく早く減らすため、除染が実施された。地表をはぎ取った土を詰めた黒いフレコンバッグが県内各地に積み上げられた。 それが今は
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歩むものの少ない道から=永山悦子
2023/2/13 13:10 930文字ヒマラヤのふもとの小国、ブータンが提唱する「国民総幸福量(GNH)」は、今や有名だ。国民の幸福を指標に持続可能な開発を進める。その功績で、先代のワンチュク国王が今年度のブループラネット賞に選ばれた。 昨秋には娘のソナム王女が来日し、「歩むものの少ない道」というテーマで記念講演した。1972年、16
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市民の力で国の宝に=永山悦子
2023/2/6 13:08 954文字明治維新後、全国の貴重な文化財が存亡の危機に陥った。仏教を認めない「廃仏毀釈(きしゃく)」だ。多くの寺院が廃寺となり、価値の高い建物や仏像が壊された。だが、こうした風潮を憂える声も高まり、明治政府は文化財の保護へ動く。 1897(明治30)年に「古社寺保存法」を制定し、同年12月28日の官報に、同
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医療プレミア特集
受け継がれる「渋沢精神」 いま高齢者医療で大切なこと
2023/2/1 04:30医療プレミア 3614文字高齢化が加速し、さまざまな課題に直面する日本。その中で、創設から150年の歴史を刻む高齢者医療の専門組織が、高齢になっても暮らしやすい社会や医療体制作りに取り組もうとしている。日本の資本主義の父と呼ばれ、近代化をリードした渋沢栄一が礎を築いた東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)だ。鳥羽研二理
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2類か5類かでなく=永山悦子
2023/1/30 13:05 943文字新型コロナウイルスが、今年5月に感染症法上の「5類」に分類されるようになるという。結核などと同じ「2類相当」だったものが、季節性インフルエンザや麻疹、梅毒などと同じ扱いになる。 5類感染症は、重症化リスクや感染力に応じた分類のうち、比較的危険性が低く、既に知られた感染性の病気とされる。 変更の決定
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挑戦の年に=永山悦子
2023/1/23 13:10 931文字昨年は、日本の宇宙開発にとって試練の年だった。 ショッキングだったのが、10月のイプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗だ。最近の日本は、人工衛星の打ち上げで世界に誇る成績を残していたから、「想定外」とも感じる残念な結果だった。 超小型月着陸機「オモテナシ」の失敗も心が痛んだ。11月にロケットから分
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侮るべからず=永山悦子
2023/1/16 13:16 933文字新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言や水際対策を実施する際、根拠となったのが「新型インフルエンザ等対策特別措置法」だ。しかし、名前にあるように、新型コロナ対策のために作られた法律ではない。 2012年、高病原性の鳥インフルエンザウイルスがもとになる「新型インフルエンザ」の発生に備えて策
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ある研究者の最後の仕事=永山悦子
2022/12/26 13:09 943文字「20年かかってまとめた仕事です」。2020年11月、旧知の研究者からメールが届いた。コロナ禍でウェブでの取材だったが、表情からは自信がうかがえた。 少し専門的になるが、その研究を紹介したい。 糖尿病になると膵臓(すいぞう)のβ細胞の働きが落ち、血糖値を下げるインスリンが分泌されにくくなる。 そこ
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AIのエコな使い方=永山悦子
2022/12/19 13:08 932文字定期購入している商品を解約したい。ただ、電話で断るのは気が重いし、ウェブできちんと解約できるか不安……。 そんな悩みに応える「チャットボット」のサービスが始まっている。チャットボットとは、ウェブ上の「自動会話プログラム」のこと。ホテルの予約サイトなどで、キャラクターが出てきて「ご質問は?」などと聞
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医療プレミア特集
「感染症から逃げない」 ゾコーバ開発に賭けた製薬メーカーの思い
2022/12/17 11:00医療プレミア 3288文字新型コロナウイルス感染症の国産飲み薬「ゾコーバ」は、塩野義製薬が過去の創薬研究で経験した失敗や蓄積が生き、誕生にこぎつけられたという。成功例が注目を集める中、製薬企業の研究者たちは「(薬になるのは)何万分の1」という厳しい挑戦に、どのように向き合っているのか。「自分たちが経験してきた失敗の数々は、
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医療プレミア特集
コロナ治療薬ゾコーバ 「後出しじゃんけん」の疑問に答える
2022/12/17 04:30医療プレミア 3243文字新型コロナウイルス感染症の国産飲み薬が、初めて承認された。塩野義製薬の「ゾコーバ」(一般名・エンシトレルビル)だ。国内の創薬としては従来を大幅に上回るスピードで開発が進んだ一方、国の審議では薬の有効性推定を巡り議論になった。今回の承認にこぎつけた原動力と苦労について、創薬段階を担当した立花裕樹・事
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大熊町のトレイル=永山悦子
2022/12/12 13:06 926文字青森県八戸市から福島県相馬市の沿岸を1本の道でつなぐ。約1000キロの「みちのく潮風トレイル」が開通したのが2019年だった。既存の道路、遊歩道、山道などを歩く。東日本大震災後、「自然の優しさと厳しさを胸に刻む道」として作られた。 現在、福島県内をさらに南へ、と計画が進む。いわき市へ至る「うつくし
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なぜ病名を変えるのか=永山悦子
2022/12/5 13:07 913文字「『旧統一教会と同じ』と指摘されたのがショックだった」 こう話したのは、日本糖尿病協会の清野裕理事長だ。同協会は、患者支援や啓発活動に取り組む。先月、「糖尿病」という病名が患者への偏見につながっているとして、「病名の変更も検討すべきではないか」と提案した。 そのことを報じたウェブの記事に、「教団は
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オモテナシが見た月は=永山悦子
2022/11/28 13:11 935文字「アースセット」 米航空宇宙局(NASA)のツイッターがつぶやいた。一緒に紹介された写真は、国際月探査「アルテミス計画」の第1弾として打ち上げられ、順調な旅を続けるオリオン宇宙船から撮影した月の裏側。グレーの月の表面には、クレーターなどの模様が広がる。 その左下を見ると、月の影に隠れようとしている
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博物館が帰ってきた=永山悦子
2022/11/21 13:21 928文字ようやく、だ。東日本大震災から11年8カ月、岩手県の陸前高田市立博物館が復活した。今月5日に開館し、「同市の公共施設としては最後の復旧」と報じられた。 本欄でも何度か紹介したが、私は震災翌年から博物館の取材をしてきた。新博物館を開館6日後に訪れた。建物は威風堂々としていて、秋の日差しのせいだけでな
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