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IT活用
農業が変わるスマホアプリ 簡単入力で「働き方データ」集積 儲かる事業へ経営改善

スマートフォンを操作し、農業経営支援アプリ「アグリオン」に作業状況を入力する鈴盛農園の林克典さん

 冬ニンジンの指定産地、愛知県碧南市の「鈴盛農園」。砂土の上を耕運機が進み、まっすぐな畝(うね)が生まれていく。麦わら帽子姿の男性が、取り出したスマートフォンを数回タップし、作業のデータを入力してポケットにしまった。

    スマホでリアルタイムに作業進捗共有

     同農園代表の鈴木啓之さん(34)は非農家出身だ。25歳の時に、結婚したのをきっかけに、自動車関係の会社を退職。「これから農業は面白くなる」と新規就農した。

     愛知県立農業大学校や農業法人で経験を積み、3年後に独立。30アールの耕作放棄地を借りるところからスタートし、現在は計2.4ヘクタールにまで拡大している。

     畑に塩水をまく独自の農法で、糖度と食味を高めたオリジナルブランドのニンジンが自慢だ。農協・市場を介さない販路を開拓し、自分で決めた価格で直接販売する。「日本の農業をカッコよく」をテーマに掲げ、SNSやブログなどを通じて、その取り組みを発信し注目を集めている。

     その鈴木さんが「とにかく簡単で使いやすい」と高く評価するのが、無料の農業経営支援アプリ「Agrion(アグリオン)」。スマホがあれば、シンプルな画面で、作業場所や内容、担当者など「人の働き方」を素早く記録、共有できる。

     導入前には、1日の作業から戻った後、パソコンで日報を作成していた。「畑が二十数カ所に点在しているため、『午前中はどこで何をしたんだっけ』といった記憶漏れもあった。今は、離れた所で働く従業員がいても、リアルタイムで作業の進捗状況が把握できる」と喜ぶ。

    鈴盛農園のニンジン畑で栽培方法を説明する鈴木啓之代表。除草剤を使わず、太陽光で土を熱して雑草の芽が出ないようにするため、マルチシートで覆われている

     登録した畑の地図と航空写真が結びつけられているので、慣れない人でも場所を間違えずに到達できる。除草など、作業時間を分析することで、畑ごとの特性の把握も可能になったという。「初期設定時に肥料代を入力する欄があるなど、コストもしっかり意識できる」といい、経営者としてのメリットも大きいと語る。

    「評価の軸」見える化、融資にもつながる

     「農作業のデータ集積の恩恵は、現場の改善にとどまらない」。三重大学大学院生物資源学研究科の亀岡孝治教授はそう強調する。亀岡教授は、農業IoT研究の第一人者で、1985年から食品工学を研究。光センシングによる農産物の科学的評価などに取り組む。

    これからの農業のあり方について語る三重大学の亀岡孝治教授

     日本の農業が抱える課題として、後継者育成や気候変動リスクなどと共に、事業評価の難しさがある。亀岡教授は「新規就農者や農業法人が融資を受けやすくするためには、土地や建物、設備といった分析だけではなく、土作りや栽培方法、収穫や保蔵技術といった評価も必要。『どう栽培したか』の部分の評価に欠かせないデータの一つが、これまで見えにくかった『人の動き』だった」と話す。アグリオンなら、それが可視化できるうえ、農家にとってネックになりがちだったIoT導入の費用対効果もクリアしており「画期的だ」という。

     また、販路の拡大につながり、2020年東京五輪・パラリンピックの食材調達要件にもなった農業生産工程管理(GAP)認証の取得のうえでも有効になるという。

     一方、融資を行う側の立場から「最重要点は『見える化』」と言い切るのは、静岡銀行法人ソリューション営業グループ長の岩崎隆行さん。「経験と勘の従来型農業も素晴らしい。しかし当事者にしか分からない部分も多く、第三者による体系的な評価が難しい。工業や商業など他産業のように、管理された各種データを可視化することで、我々が取引先の経営状態を把握し、事業計画を作成するのにも役立つ。事業モデルが標準化できれば、参入障壁も下げられる」と展望する。

    「農から食」社会全体が考えて

     亀岡教授は、農産物や加工品が消費者の口に入るまでの全体を考えることの重要性を説く。将来的には、出荷後の加工、物流、小売り、消費者に至る各段階で、さまざまな情報をビッグデータとして蓄積。それらを解析することで、リスクを軽減し、付加価値を高める「最適解」を導き出し、フィードバックすることで、生産者の増収につなげることも期待できる。

     「個々の努力に任せるだけではいけない。国が大規模なクラウドを準備するなど、戦略的に取り組むべきだ」。生産者だけでなく、社会全体で持続可能な農業ビジネスモデルを模索する段階に来ていると指摘する。「農業において、人の関与の重要性は変わらない。膨大なデータと、経験によって蓄えてきた人の知恵とを組み合わせ、農業者自身が戦略を取捨選択する。これからの農業は、そうあってほしい」。

    未経験者でも“レベル15”からスタート

     「ICT(情報通信技術)は、現状を改善するために一生懸命考えている農家が『ここは機械に任せられる』といった判断をするのに使うもの。さらに注力すべき方に力を使えるようになる」という亀岡教授の言葉を、鈴木さんが裏付ける。

    一目で名前が分かるように整理された鈴盛農園の道具類

     「作業記録の入力の省力化で時間が生まれ、日々の改善案を、さらに熟考できるようになった。今やっていることが『これでいいのかな』と危機感を持っている農業仲間がいたら、現状把握のためにも勧めたい」

     より多くの人に農業の魅力を伝えようと活動を続ける鈴木さん。全員が未経験者である農園スタッフのためのマニュアル作りや、農具・資材類のラベリング、整頓にも気を配る。「『あれ取ってこい、あれ』という指示がわからずに怒られるなど、細かいストレスが積み重なり、就農した若者が辞めていく……といった話も多い。

     他の産業のようにきちんとデータを分析し、効率化した働き方を共有すれば、そんな損失もなくなる。ロールプレイングゲームで例えると、新規の就農者でも、既にある情報を武器に(かなり経験を積んだ状態の)“レベル15“から始められれば、農業界全体が底上げできると思うんです」。

     「やってきたことの集計を見るのが楽しみ。それをもとに、変えるべき点をみんなで考えたり、新しい人に伝えていったりしたい」。鈴盛農園のニンジン畑で、アグリオンに「作業終了」と入力した林克典さん(25)。就農3年目の日焼けした顔がほころんだ。

    種まきを終えた畑に並ぶ鈴盛農園のスタッフたち。右から鈴木薫農場長、鈴木啓之代表、林克典さん、研修生の白井賢太朗さん

    すずき・ひろゆき 1983年生まれ。全国農業青年クラブ連絡協議会(日本4Hクラブ)61代、62代会長と顧問を歴任。独自の塩農法で育てる甘いブランドニンジン「スウィートキャロット リリィ」には、ニンジン作りを教わった祖母りりさんの名をもらった。野菜や果物などの作物をモチーフにした革アクセサリーブランド「TASCATA VERDURE」のプロデュースも行う。


    かめおか・たかはる 1955年生まれ。農学博士。84年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。フードシステム学研究室。農業情報学会、日本食品工学会、農業食料工学会、計測自動制御学会などに所属。アジア・太平洋地域における「食・農・環境」の豊かな発展を目指す産学官民連携の一般社団法人「ALFAE」会長。

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