メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

あなたの参院選

老後不安解消の「処方箋」 貯蓄2000万円では足りない?

参院決算委員会で、夫婦の老後資金として「30年で約2000万円が必要」とした金融庁の試算に関する質問を聞く安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相=国会内で2019年6月10日、川田雅浩撮影

 「老後に2000万円を取り崩す必要がある」。金融庁金融審議会が6月3日にまとめた報告書の内容に、多くの人に「年金は安心じゃなかったのか」「そんなにためられない」との驚きの声が広がりました。「金融広告で用いる不安商法のよう」と専門家からの意見もある一方、別の研究者からは「生活水準が現役時代と比べて10%以上低下する可能性が大きい50代世帯は46%」との試算も示されました。自分の老後にどんな備えが必要なのか――。そんな不安に対し、専門家の意見を踏まえ、シミュレーションしながら考えてみたいと思います。

報告書は「不安商法」?

 「金融商品の広告で用いられるような『不安商法』のようで、安易だった」。金融庁がまとめた報告書について、経済評論家の山崎元さんは批判します。

 報告書は大学教授ら21人のメンバーがまとめた「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」。記載された試算の基になったのは「総務省の家計調査」で、65歳以上の男性と60歳以上の女性という高齢無職夫婦をモデルとして、収入と支出の差(平均値)をみると「毎月の不足額は約5万円」と見込み、約30年間分で2000万円としました。

 「『老後ってこんなにお金が必要なんですよ』とあおるのは、マーケティングの基本。利幅が大きい商品を売るときに不安を喚起するのはよくある手段。せめて一つだけでなく、複数のモデルケースを出すべきだった」と山崎さん。しかし、こうも指摘しています。

 「世帯収入にもよるが、蓄えは2000万円では足りないのではないか」

年金だけで足りる?

ニッセイ基礎研究所・高岡主任研究員が試算した老後の生活のために用意すべき金額

 「年金だけで老後の生活水準は維持できるのか?」。ニッセイ基礎研究所の高岡和佳子主任研究員はそんな問いに答える研究をしています。高岡さんは、65歳で退職した夫と妻が、老後に自由に使えるお金(可処分所得)が公的年金のみの場合、現役時代の生活水準を維持できるのか、維持するためにどのくらいの資産が必要なのかを検討してみました。すると、現在の年収が300万円未満でも1800万円、500万~750万円未満の層でも3200万円が必要という見込みになりました。

 こうした試算を基に、高岡さんは「実際50代で老後の生活のための準備が整っている世帯がどのくらいあるか」を調査。家計調査や「家計の金融行動に関する世論調査」を基に、年収別純資産残高の分布を推計するなどして分析した結果、50代世帯のうち46%が「老後に生活水準が現役時代と比べて10%以上低下する可能性が大きい」という見込みなのだそうです。つまり、年金給付を受ける老後に生活に使うことができるお金が10%以上減る人は半数近くに上るという意味です。

 「10%」と聞くと、大きな額ではないようにも感じます。しかし考えてみてください。例えば月々20万円を切り詰めて使う生活を送っている中、使えるお金が18万円に下がってしまったら。そこに、病気など不測の事態や、今年10月に予定されている消費増税のような制度の変更に伴う負担増があった場合、生活を直撃するのは確実です。

 もしも生活のレベルを維持したいと考えるなら、やはり貯蓄は必要であるようです。

 では、貯蓄はどのくらいするのが望ましいのでしょう。人によって生活スタイルも収入も異なるので一概には言えませんが、その目安になる数字として、山崎さんは「いつまで働くのか」や「老後生活はどのくらいの生活水準を維持したいのか」という数字をあてはめ「どのくらい貯蓄が必要なのか」を試算する公式を提案しています。

 この公式をもとに、山崎さんがファイナンシャルプランナーの岩城みずほさんとの共著「人生にお金はいくら必要か」で試算した事例では、①23歳の新入社員=手取り所得の21%②33歳の男性会社員が共働きの妻と結婚しようとする場合=同21%③30歳のシングルマザー=20%(教育費を考えない)④45歳の男性会社員が住宅を購入した場合=11~15%(ローン返済は別)――といった数値がはじき出されました。さまざまな条件により数字は変わることはありますが、厚生年金のある会社員の場合、おおむね「手取り収入の2割程度」が目安になるようです。

 山崎さんは「収入は、今の生活費というだけでなく、将来の生活費も含まれていると考えるべきだ」と提案します。そのためにも「定期的に自分の収入と支出のバランスを見直していくことが不可欠」と強調しています。

 「2割は難しい」という意見もありそうですが、山崎さんは「もし貯蓄できないのであれば、どこかで何かを払いすぎている可能性がある。身の丈にあった生活をするためにも、これを機に支出の見直しをすべきではないか」と助言しています。

金融庁金融審議会の報告書。30年で約2000万円が必要と明記され、波紋を呼んだ

貯蓄は「人生の固定費に」

 では、どのように貯蓄すればいいのでしょう。資産運用をアドバイスする企業「ファイナンシャルスタンダード」の福田猛社長は「その人がお金をどのように使うかはその人の人生の価値によって異なるため、一概には言えない」と前置きし、貯蓄や運用に充てる資金を「色分け」すべきだと主張します。

 例えば、年間100万円の貯蓄を検討する場合、①退職するまでためるお金を40万円②約20年間ほどの見込みで積み立てる18万円③急な出費などで出し入れできる22万円――といった具合です。こうした貯蓄は「備えのためには、光熱水費と同じように、人生の『固定費』としてしまうのが良い。『今の生活でカツカツ』という声もあるが、収入が非常に低かったり、病気の治療などやむを得ない場合を除き、『無駄』が必ずあるはずです」と警鐘を鳴らします。

参院選を機に再考を

 こうした専門家からの意見を踏まえてもなお、不安が消えない人は少なくないでしょう。ソーシャルメディアなどでは「老後の貯金に2000万円なんて無理」などの声も多数上がりました。特に就職氷河期世代の非正規労働者にとっては、貯蓄が現実的に難しい上、厚生年金に加入できない場合、支給される年金額も低くとどまります。

 年金は、老後の収入の大きな柱の一つになります。ですが、その人生をすべて支えられるだけの「幹」の太さがあるとはいえないのが現状なのです。

 3人の専門家が口をそろえたのは「できるだけ長く働くことが老後生活費の負担軽減になる」という点です。

 今の制度をもっと知り、自分の老後を見据えて将来をどうするのか。また、制度そのものを変えていく必要があるのか。迫る参院選では、各政党の主張をよく見比べて、自分の望む形に近い政策を選ぶ必要がありそうです。【蒔田備憲】

 

連載「あなたの参院選」

 この連載は毎日新聞社とYahoo!ニュースによる共同企画です。参院選を新たな目線から伝えます。

候補者を探す

毎日新聞ボートマッチ参院選 えらぼーと2019

党派別立候補者数

 (改選) 選挙区 比例 立候補
自民(67) 49 33 82
公明(11) 7 17 24
立憲(9) 20 22 42
国民(8) 14 14 28
共産(8) 14 26 40
維新(7) 8 14 22
社民(1) 3 4 7
希望(1) 0 0 0
諸派(2) 69 25 94
無属(3) 31 0 31
(117) 215 155 370

注目ニュース