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あなたの都知事選

保育園の努力と限界 ベテラン園長の思いとは

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、使用禁止となった公園の遊具=東京都葛飾区で2020年4月24日午後5時9分、幾島健太郎撮影

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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で記者の息子が通わせてもらっている保育園は原則休園となり、約1カ月半、妻と交代でテレワークしながらの日々を過ごした。身に染みたのは社会を支える保育園と保育士さんたちの存在のありがたさだ。取材を進めるとコロナ下での責任を「丸投げ」された保育現場の切実な声も聞こえてきた。子どもの命を預かり、社会活動を支える保育現場への支援や待遇は、その責務や労働に見合うものなのか。あるベテラン園長の思いとともに考えたい。【大島祥平】

「どう対策を取ればいいのか」

 3月。東京都内のある区で保育園を運営する50代の女性園長は気をもんでいた。都内でも保育園での感染例が出始めている。施設名は公表されなくとも、SNSですぐに特定され、広まる時代だ。「どこそこの保育園でコロナが出たとか、やり玉に挙げられていた。うちも感染者が出ない保証はないし、そうなったらつるし上げられるのではないか」。かわいい園児も、大事な職員も、感染から守りたい。だが予防策としてできることは換気と消毒しかない。

 都は4月、緊急事態宣言を踏まえて保護者に登園自粛を呼びかけた上で、社会生活を維持するために必要な保育の提供を要請した。園長は区から「施設長判断で受け入れるように。ただし万全の対策を」と通知されたという。「どう万全の対策を取ればいいのだろう」。丸投げされた気分だった。

東京都が徹底して外出自粛を呼びかける「ステイホーム週間」。公園の遊具は使用禁止となり、子供たちの姿はほとんどなかった=東京都杉並区で2020年4月25日、長谷川直亮撮影

 この園では登園自粛をお願いしつつ、保護者から要請がある場合は医療従事者などの職種で限定せずに受け入れることにした。登園者は3分の1になったが、預けられた子の割合は1、2歳児が多かった。「小さい子の面倒をみながらテレワークができないということなのでしょう」。保育は「3密の極み」と園長は言う。抱っこやスキンシップは、ソーシャルディスタンスという言葉が通用する世界ではない。うつすかもしれない、うつされるかもしれないという感染リスクの恐怖と闘いながら、自分たちの存在には社会的使命があるという思いを支えにする日々だった。それは「新しい生活様式」と「万全の感染対策」を求められる今も続いている。

「保育の質の担保がおざなりになっていないか」

 保育園は子どもたちの命を預かる責任を担うだけでなく、活動記録や保育計画の作成などの業務量は多い。だが、その過酷さと比べて待遇は十分とは言えない。

 2019年の国調査では、全産業平均に比べて全国の保育士の平均月収(超過勤務含む)は約9万3000円低かった。東京都は待遇を改善するため独自の上乗せ策を講じており、その手厚さは近隣県から「保育士が東京にとられる」と危機感をあらわにする声が上がるほどだ。しかし、その東京の保育士でも、全産業平均と比べると平均月収は約4万6000円も下回っているのが現状だ。

 「保育園を考える親の会」代表の普光院亜紀さんは「都政は、この4年で思い切ってやったことはあった。本来は国が保育士の本俸を上げるべきだが、待遇面での独自の上乗せ策などは小池(百合子)都知事の功績」と評価した上で、「他府県に比べて圧倒的な財政力があり、子育てや待機児童などの問題も多く抱える東京だからこそ、できること、やるべきことはまだまだある」と強調する。

 力を入れた待機児童対策では、区市町村を通じて昨春までに認可、認証保育園を都内で635カ所増やし、今春までの4年間で待機児童は約6000人減って約2300人となった。だが、遠くでは通えないため自宅近くなどの特定施設のみを希望したケースなどは待機児童の集計から除外されており、同会によると認可園に申し込んで入れなかった児童数は約2万3000人に上る。さらに普光院さんが気になっているのは「数」を重視してきたことで生じたひずみで、子どもにとって最も重要な「質」の担保がおざなりになってはいないかという点だ。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、使用禁止となった公園の遊具=東京都葛飾区で2020年4月24日午後4時41分、幾島健太郎撮影

 認可保育園に預けていた保護者から受けた相談では次のようなケースがあった。人手が足りないからと園でトイレに行きたいときに行かせてもらえない。保育士から嫌がらせの言葉をかけられたり罰を受けたりする保育で登園拒否になった。子どもは家で保育士のことを思い出すだけで震えるほどだった。空きがある園が見つかり転園したところ、見違えるように元気になったという。

 普光院さんはアプリを使ったベビーシッター仲介業のシッターがわいせつ容疑で逮捕された事件なども挙げ「都の助成金を受けている業者なので利用者は大丈夫と考えてしまう。税金を出すならしっかり指導するなど、行政は質を担保しなければならない。都内は園庭がなく保育室も狭いような施設が急増しているが、そういうところは感染症対策もより困難になる」と指摘する。

選挙で見つめ直す施策に

 あるベテラン園長の話に戻ろう。「昔に比べれば、待遇はずいぶん良くなった」とここ数年の都の助成には感謝している。その上でこう続ける。「だからといって、他の仕事と比べると給料がいいわけではない。体力的にも、精神的にもたくさんの負荷がかかる仕事なのに」。昭和の時代から保育に携わり「女性会社員の友達と比べて7割という給料でやってきた。子どもが好きだという思いに支えられて」。その言葉には実感がこもっていた。

 だからこそ、「もっと保育園にお金を投入してほしい」というのが願いだ。配置基準以上に保育士は配置しているが「もっと人を雇って、保育士の負担を減らしてあげたい。それは、保育の質にも直結する。すべて人件費に還元するし、用途は監査を徹底してもらえればいい。保育士不足ではあるが、いい運営をしていればいい保育士さんは自然と集まってくる。だから、園にもっとお金がほしい」。これはぜいたくな要求だろうか。

 「保育園落ちた。日本死ね」というブログから待機児童の問題が話題となったのは16年のことだ。「あれから『保育』が急に脚光を浴びた職種になった感じがする。その後は選挙の時には『保育園が』『保育士が』と言われるようになった」と園長は言う。確かに、その年に行われた前回都知事選では「待機児童」「子育て支援」が大きな争点となり、国政でも施策が取られるようになった。

 保育は次世代を担う子どもたちの未来につながる重要で根源的な仕事で、保育士は子を持つ働き手が社会で力を発揮するためにも欠かせない存在である。だが、今は、少子化が続いて施設や保育士が余るようになると、助成や支援などが打ち切られるのではないかと懸念する声が保育業界にはある。

 「話題の時だけ持ち上げて、はしごを外されることはないか。その時だって子どもはいて、保護者はいる。保育士だって」

 園長の言葉に考えさせられた。「保育、子育てが選挙の争点じゃなくなって『票』に結びつかなくなったらどうなるんだろう。また『子どもが好きだから』の思いに支えられて保育をする時代に戻らなければいいな」

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