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緊急現地報告「割れる米国」

「それでもトランプ」VS「ブラック・ライブズ・マター」

トランプ支持派の集会に集まった人たち=米中西部オハイオ州アシュランドで2020年10月3日、國枝すみれ撮影

 投票まであと3週間に迫った米大統領選。私は、留学と特派員生活をあわせて10年米国で生活し、大統領選取材にも4回関わった。しかし、今回の選挙結果によっては、民主主義の旗手という米国の役割が終わるかもしれない。そんな強い危機感から米オハイオ州に入った。オハイオは選挙の鍵を握る「揺れる州」の一つで、4年前はトランプ氏を大統領に選んだ。今回はどちらに動くのか。人口約2万人の田舎町アシュランドを訪れると、トランプ支持者の熱気が増す一方で、警官の黒人への暴力に抗議するブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大事だ)運動も起きていた。【米オハイオ州アシュランド國枝すみれ】

マスク着用が踏み絵

 「トランプに投票を!」「あと4年(FOUR MORE YEARS)」

 街道沿いの交差点に陣取ったトランプ支持者たちが、「トランプ2020」と印刷された大きな旗を振り、通る車に向かって叫ぶ。通り過ぎる車はクラクションを鳴らして、賛意を示す。

 「4年と言わず、もう8年だ」。運転席から男性が叫んだ。「同意する」と叫び返したのは、「2024、トランプを王様にしよう」と印刷された大きな旗を手にしたコーディ・レイグルさん(65)だ。たとえ今回勝利しても、3期目は法律で禁止されているため、トランプ氏が2024年の大統領選に出馬することはあり得ない。「もちろん冗談だけど、これを見た民主党員は狂ったように怒るから、この旗が一番好き」。コーディさんはにやりと笑う。

 10月3日、トランプ支持派の集会。場所は地域の銃販売店だ。トランプ支持者はマスクをつけない。前日にトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したというニュースが飛び込んできたというのに、参加者35人のうちマスクをつけているのは2人だけだ。

 「コロナなんて怖くない。感染者の95%は回復する。死ぬタイミングは神様が決める」「米国のコロナ死者数は水増しされている」。支持者たちが主張する。トランプ大統領はマスクをつけない。オハイオ州はマスク着用を義務づけているのだが、マスク着用が、大統領を信じるか、信じないかの踏み絵になっているのだ。「あなたもマスクを取って話していいよ」と言われたが、私にはそんな勇気はない。

増えたトランプ支持の旗

 私は4年前もこの町を取材で訪れている。その時、アシュランドの路上でトランプ支持の旗を振る人はわずかだった。今年は80人を超える支持者が集まる日もある。アーロン・アールスさん(47)も大統領に心酔する一人だ。「良い仕事が増えた。俺がオバマ時代に働いていた工場は時給8ドルだったが、トランプ大統領になって17ドルの換気扇部品の工場の仕事を手に入れることができた」という。

 「勢いがあるのは、4年で実績ができたからよ」。選挙事務所に戻ったコーディさんが説明する。説明しきれないから、と手渡されたのは「トランプ政権の功績」と題したプリントだった。コロナに感染する前の好調な経済、右派の判事の任命など17ページもある。

 「新聞やテレビは嫌い。信用していない」。16年10月に初めてコーディさんに会った時、面と向かって言われた。「私たちトランプ支持者を、貧しくアホで哀れな人々の集団と描き出すリベラルメディア」にうんざりしたからだという。口を開いてくれたのは、私が外国メディアだからだ。これまでの政治に絶望し、人生でほとんど投票所に足を運んだことがない人たちがトランプ氏に熱狂して投票したおかげで、トランプ氏は勝った。民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏が「嘆かわしい人たち」と呼んだ人たちだ。

 コーディさんが「トランプを応援する嘆かわしい人たち」と大書した手作りの全米地図の前に立ち、宣言した。「週に4、5人は民主党から共和党に乗り換える市民が選挙事務所にやってくる。郵便投票による不正さえなければ、オハイオは今回もトランプが圧勝する」

120日を超えて続くブラック・ライブズ・マターの声

 一方、町の中心街では別のグループが「人種差別をなくそう」と声を上げていた。人口2万人のアシュランドでは、その多くがお互いを知っている。風土は保守的で、約7割は共和党支持者だ。衝突をできるだけ避け、政治についておおっぴらに話すことをしなかった町に異変が起きたのは6月4日だ。5月25日に黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官に窒息死させられた事件をきっかけに全米に拡大したBLM運動がこの町にも波及したのだ。

 「もしあなたが私の肌の色をしていたら、子どもをこの制度の中で育てたいですか? そうは思わないでしょう。ブラック・ライブズ・マター」。黒人の大学生キオン・シングルトンさん(23)は自作の看板を手にメインストリートの角に立ち、通勤する市民に訴えた。翌日には3人が加わり、すぐに数十人に増えた。それから今日まで一日も途切れることなく続いている。参加者の多くは白人住民だ。

 「一部の人だけのための正義なんてあり得ない。全ての人のための正義でなくてはならない」…

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國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ニューヨーク特派員を経て、2019年10月から統合デジタル取材センター。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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