朝刊文化面
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毎日俳壇
西村和子・選
2023/9/18 02:00 370文字日本語を覚えて帰るつばめあらん 東京 東賢三郎<評>人間界のそばに巣を作るつばめだから、毎日聞き慣れた簡単な日本語は覚えたかも知れない。想像が広がって楽しい。病床もよしと思へる猛暑かな 明石市 吉室奨<評>身の危険を感じるほどの猛暑の日々。こんな発想の転換も救いとなることだろう。穴惑(あなまどい)そ
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毎日俳壇
井上康明・選
2023/9/18 02:00 352文字故郷には兄との月日ほととぎす 唐津市 梶山守<評>ホトトギスの鋭い声を聞くと、幼いころ兄と遊んだ故郷の山野、その歳月を思い出す。郷里を離れて、何十年も過ぎたけれど。天高し遺跡の丘へ犬放つ 春日市 林田久子<評>秋天の下、古代の遺跡が保存された広々とした丘へ犬を放つ。犬は、一気に走り出す。ベランダの二
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毎日俳壇
片山由美子・選
2023/9/18 02:00 351文字ふれてみて今日のいちじく捥(も)ぎにけり 西宮市 平田あい<評>程よく熟さなければ甘さが足らず、熟しすぎると傷みやすい。そっと触れて見極めるというのがいかにもイチジクらしい。蛇よりも蛇の影濃き真昼かな 山形 佐藤美和緒<評>炎天下を進む蛇の影が地にくっきりと。影のほうが濃く見えるというのが不気味さを
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毎日俳壇
小川軽舟・選
2023/9/18 02:00 334文字残照の水害遺構鳥渡る 吹田市 坂口銀海<評>東日本大震災では震災遺構の保存の是非が論じられた。こちらは水害。押し黙る水害遺構がおごそかに見える。炎昼のヤクザ映画に気を貰(もら)ふ 桜川市 海老原順子<評>暑さにだらけた自分に気合を入れる。こんなやり方もあったかと感心した。床拭いて心涼しくなりにけり
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毎日歌壇
水原紫苑・選
2023/9/18 02:00 482文字曼殊沙華(まんじゅしゃげ)人間みたいに群れていて散歩をすこし孤独にさせる ふじみ野市 雨雨雨汰<評>マンジュシャゲは詩歌人に愛される花だが、確かに群れて咲くことが多い。マンジュシャゲと人間、どちらが真に孤独か。水道の蛇口捻(ひね)ればねっとりとなま温かい星の体液 古賀市 砂山ふらり<評>星の体液の薄
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毎日歌壇
加藤治郎・選
2023/9/18 02:00 490文字爪のばすひとはなにかに導かれきれいなものをのせている 横浜市 大原香花<評>ネイルアートを思った。陶酔するほどの深い美に導かれているのだろう。結句の5音でリズムを変えた。少しさめている。生活苦じっと手を見る人いたが俺は薬の山を見ている 大阪市 吉田昌之<評>石川啄木である。思えば啄木の時代に薬の山は
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毎日歌壇
伊藤一彦・選
2023/9/18 02:00 477文字民主主義人種差別を超えられず建国よりの業(ごう)の根深さ 松戸市 加賀昭人<評>かつて民主主義国と理想化していた米国の反民主主義的な社会の現実を「業」と詠む。改めて民主主義とは何かを問う作。傷跡が少し残れば叩(たた)かれる人の世界を映し出す桃 駒ケ根市 市山利也<評>結句に「桃」を置いたのが見事。生
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毎日歌壇
米川千嘉子・選
2023/9/18 02:00 488文字悪夢だった?現実だった 手作りのフェイスシールドプラゴミに出す 大阪市 小熊光子<評>コロナ禍当初、慌てて作った物だ。今また感染者は増えているが、当時の緊張はウソのよう。上句の自問自答が印象的だ。何度まで耐えられるのか人類の命削りてこの夏もゆく 名古屋市 外山雪<評>数年前は体温超えで驚いていたはず
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うたは奏でる
佐クマサトシの歌=染野太朗
2023/9/18 02:00 629文字佐クマサトシの第1歌集『標準時』がおもしろい。・クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘(うそ)だ よく引用され考察されているのはこんな歌。叙情よりも論理、感情よりも思考を先立たせたような歌で、ふしぎな魅力がある。では次のような歌はどうか。・席を立つときそのままでいいです
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囲碁
第10期会津中央病院・女流立葵杯三番勝負 藤沢里菜女流本因坊-上野愛咲美女流立葵杯 第2局の6
2023/9/18 02:00 484文字◇上野が冷静に収束 藤沢は見ていなかった◎のオキに動揺したはずだが、すでに秒読みに入っている。60秒未満で気持ちを立て直し、現局面の最善手を探す。この詰め碁は「コウ」が正解。黒63、65が最善である。局後、上野は「判断の難しい碁で、わからないことが多かった。◎のあと、ちゃんと打てば白が打ちやすいか
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将棋
第82期名人戦A級順位戦 佐藤天彦九段-中村太地八段 第11局の4
2023/9/18 02:00 696文字◇大長考は堂々巡り 佐藤の両こめかみに張り付く冷却シート。男前が台無しだが、意に介す様子はない。[先]5八歩は[後]4七成桂で角が行き場を失う。先手にとって理想の順は[先]5四歩[後]同銀の交換を入れてから[先]5八歩。今度、成桂を寄られても[先]6四角と飛び出せる。 しかし[先]5四歩に対し、構
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乱読御免
理解不能な人物が色づく=今村翔吾
2023/9/17 02:00 1581文字<文化の森 Bunka no mori> 各地の講演会などに行って、「〇〇を主人公に書いてください」と言われることが多い。この程度ならば、検討してみますとお答えするし、小説にするかどうかはともかく、それを切っ掛けに面白い人物だなと注目することもある。 しかし、それでとどまることなく、必ず面白いから
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私の記念碑
ジャズピアニスト 山下洋輔さん/中 フリージャズに開眼 米に武者修行
2023/9/17 02:00 1703文字「近寄ってはいけない」と警戒していたフリージャズの世界に山下洋輔さんが足を踏み入れるまでには、いくつかの出会いが1960年代にあった。 1人目は音楽評論家の相倉久人さん。金曜の昼間をジャズライブ空間として貸し出していた東京・銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」で知り合い、最新のジャズ情報から人生論まで教
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書の楽しみ
調和、味わい 俊成晩年の筆=島谷弘幸
2023/9/17 02:00 1299文字<文化の森 Bunka no mori> 典麗優美な書風が中心であった宮廷の書壇も、平安時代も後期になると力強くて個性的な藤原忠通の法性寺流に代表される書風が展開されていく。先月に紹介した藤原基俊の書もその一例で、素朴で個性的な「多賀切」「山名切」を残している。 この「日野切」は、現存する藤原俊成
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宝塚レビュー
繊細な役柄、羽ばたくように 月城かなとさん主演「フリューゲル」
2023/9/17 02:00 1893文字その芝居心に、演出家の創作の翼も広がるのだろうか。宝塚大劇場で上演中の月組公演「フリューゲル―君がくれた翼―」「万華鏡(ばんかきょう)百景色」。スターへのあて書きが定石の宝塚歌劇にあっても、トップスター・月城かなとさんが持ち味以上の存在感を見せている。舞台上での「ある瞬間」に、自由に羽ばたけるよう
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音のかなたへ
存在の不安
2023/9/17 02:00 1259文字自分の人生がどこへ向かうか、知っている人はいない。 野又穫(1955年~)の絵を見ると、道に誘われる気がする。それは、かつて行った道であったのか、これから行く道であるのか。 野又の絵の多くは建造物を描いている。塔であったり、ビルであったりするが、どれも不思議な造形だ。建物の多くに階段が付いている。
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カルチャースコープ
創立100年 文化服装学院/下 根っからの洋服好きの居場所=津森千里(デザイナー)
2023/9/17 02:00 1622文字◇津森千里(TSUMORI CHISATOデザイナー) 文化服装学院に入って一番、良かったと思っていることは同じ目的を持った友人にたくさん出会えたこと。今でも「デザイン科24期生」というLINE(ライン)グループでつながっています。わたしが5年前、パリで最後のコレクションを発表したときも7、8人が
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毎日俳壇
小川軽舟・選
2023/9/12 02:00 340文字雲梯(うんてい)に望む朝空広島忌 鎌倉市 小川求<評>うんてい越しに朝の空を見上げる構図がよい。やがて子どもたちが来て遊ぶ。そう思える平和がありがたい。タクシーに乗り込む四人秋暑し 下野市 石井光<評>4人で乗れば狭苦しく暑苦しい。マージャン仲間の4人だと想像できるのがほほえましい。死に蟬(せみ)の
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毎日俳壇
西村和子・選
2023/9/12 02:00 366文字ビール乾(ほ)しすぐに厨(くりや)に戻る妻 大阪市 吉田昌之<評>晩ごはんの支度途中の妻の行動を描いて、飲みっぷりのよさや働き者の手際よさを想像させる。季語が大いに語る句。巌(いわ)叩(たた)き真砂(まさご)を叩き石叩き 川越市 大野宥之介<評>脚韻のふたつ目までは動詞、最後は名詞の季語。リズミカル
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毎日俳壇
井上康明・選
2023/9/12 02:00 364文字北辺の写真家二代鰯雲(いわしぐも) 相模原市 小山鞠子<評>北の果て、北海道の人と自然を2代にわたって撮影した写真家がいるのだろう。いわし雲を仰ぎ、その生涯に思いをはせる。台風や声ちぎれ飛ぶリポーター 長崎市 鶴田鴻己<評>テレビニュースの冒頭、台風の到来をリポートする記者。風に声を飛ばされながら報
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