私たち、一人ひとりが『食と健康の達人』となる社会へ。

北海道大学COI×医療プレミア

取り組み事例CASE

セルフヘルスケアアプリ「みまもり帖」

 高齢化に伴い増加している病気は数多くありますが、心不全もその一つです。心不全とは特定の病名ではなく、心臓の機能がさまざまな理由で低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態のこと。心筋梗塞や心臓弁膜症などの心臓病が原因で起きることもあれば、長年高血圧の状態が続き、心臓に過剰な負担がかかって、その働きが落ちてくることも原因となります。

 症状は「だるい」「疲れやすい」「動悸がする」などで、患者は現在全国で200万人に達すると言われます。最近はさまざまな治療薬の登場などで治療法は進歩しており、入院治療で病状が大きく改善できるケースが増加していますが、問題は退院後にあります。生活習慣が大きく影響する病気なのに、退院後のセルフケアが不十分で再入院したり、場合によっては悪化して亡くなったりする例が多いのです。

 セルフヘルスケアアプリ「みまもり帖」は心不全患者が、体重、脈拍、血圧、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂)などのバイタルサイン、食事や睡眠、自覚症状、服薬などの記録を自ら記録するタブレット用アプリ。バイタルサインや症状の変化をもとにリスクスコアを算出、健康状態の悪化を検知すると「早めの受診」などを知らせる注意喚起のお知らせが出ます。高齢者でも使いやすいインターフェイスを持ち、心不全の学習コンテンツも掲載しています。

 これまでに北海道大学病院など道内3病院でパイロット試験を実施。試験参加者はほぼ毎日、自分の健康状態をチェックする習慣が付き、塩分摂取量が減るなどの効果が確認できました。既にスマートフォン版「みまもり帖」も開発し、より大規模な臨床試験も実施します。また高血圧など他の生活習慣病をターゲットにしたアプリの開発も検討中。これらの取り組みで、「健康をつくる拠点」を病院から家庭に移していくことが、プロジェクトのねらいです。

写真:北海道大学COI提供

コミュニティユーティリティサービス「家族健康手帳」

 妊娠中の女性や育児中のママ、パパを支援する「家族健康手帳」はスマートフォン用アプリの形を取っていますが、そのねらいは子育てを軸にした地域のコミュニケーションづくり。そのため、スマホの中で完結した「閉じた情報媒体」ではなく、地域の自治体や医療関係者が連携した総合的なサービスとして設計されています。

 「家族健康手帳」には、赤ちゃんの身長、体重、食事や便の写真などのデータが記録でき、妊娠、出産、子育て期間に役立つ情報が届く機能もあります。しかしそれだけではなく、アプリを通して地域のプロフェッショナルによる育児サポートを受けられるのが、大きな特長です。

 「家族健康手帳」には、ユーザーが自治体やその地域の保健師、助産師、医師、看護師など医療、健康、子育てを支援するプロと簡単に連携できる仕組みが盛り込まれています。例えば、赤ちゃんの健康に関する不安をスマホで送ると、地域の保健師が「家族健康手帳」に記録してある食事や便の写真を参照しながら、適切なアドバイスを返信してくれます。より専門的な質問には医師、保育士、管理栄養士、歯科衛生士などの専門職が加わって適切な回答をし、必要に応じて対面で相談に乗る窓口の紹介も行います。

 現時点では、北海道岩見沢市が導入自治体第1号として、2016年5月から利用を開始しています。岩見沢市は全国で初めて「健康経営都市」を宣言した自治体でもあります。岩見沢市の「家族健康手帳」ユーザーは、前述のスマホ経由の相談受付のほか、アプリで子育てに関する市発行の資料や土日祝日の当番医等の情報を見ることもできます。

 「家族健康手帳」は、社会から孤立しがちな子育て期間中のママ、パパを地域のコミュニティや専門家とつなぎ、ママたちの健康も支えるプラットフォームです。今後は道内外の他の自治体への普及のほか、病後の不安を抱える人など、子育て世代以外の人への応用も視野に入れて改良が進められる予定です。

写真:北海道大学COI提供

北海道の食材を使った「美味しい食」とそれを活用した「病院食」

 北海道と言えば、全国有数の海の幸、山の幸の宝庫。そんな食材を使った「美味しい食」は、心も体も元気にする源になります。しかし大切なのはその食が健康的であること。さらに病気で食事に制限がある人でも美味しく食べられれば、なおよいはずです。

 心筋梗塞など心臓の病気や高血圧の人にとっての大敵が「塩分の多い食事」です。しかし単純に塩分を減らした食事は、美味しさの面で不満が残ります。そこで「『食と健康の達人』拠点」が注目したのが、アカモクという海藻。ワカメやヒジキと同じ褐藻類に属し、日本近海に多く生息しています。アカモクはうまみ成分を多く含み、塩味も持っています。アカモクを、塩分を減らしたまま、美味しさを保つ新しい減塩食材にすべく、商品開発が進められています。

 パスタの麺にアカモク粉末を練り込めば、健康的に塩味を強めることが可能です。またアカモク粉末を混ぜれば、麺やドーナツの生地がより「多孔質」になり、その効果で伸びにくい麺や油脂の吸収量が少ないドーナツなどが作れないかと検討されています。また抗酸化・抗肥満作用があると言われるフコキサンチンも、アカモクには多く含まれていると言われ、その食材としての大きな可能性が期待されています。

 美味しい北海道の食材を使った料理のメニュー開発も進んでいます。一例が「美味しい病院食づくり」。北海道大学病院は入院患者の栄養状態評価と栄養管理を行う「栄養管理部」を事務部の1組織ではなく、病院長直属の独立組織にするなど、早くから病院での食の重要性に着目し、「病院食の美味しい病院」という評判でも知られます。

 「『食と健康の達人』拠点」は、この栄養管理部と連携。実際に病院食として入院患者に提供しているメニューのレシピをベースに2015年8月、料理本「北海道大学病院のおいしい健康ごはん」(発行・北海道新聞社)を出版しました。さらに料理セミナーも開催し、人気を博しています。

 今後は、病院食メニューをさらに改善し、特に北海道産食材を使ったデザートの開発に力を入れます。そのうえで、完成したメニューを入院患者以外の在宅患者や一般の人向けに普及させることを次の目標に掲げています。フリーペーパーでのレシピ紹介、宅配用弁当の開発などのプランが上がっています。

  • 写真:北海道大学COI提供
  • 写真:吉永磨美

αディフェンシンで腸内環境チェック

 近年、腸内環境がさまざまな病気を引き起こす原因になることが指摘されています。腸内環境を作り出す腸内細菌叢(腸内フローラ)をいかにいい状態にするかが、健康を維持するカギになります。

 この分野で最近注目されているのが、αディフェンシンという物質です。これは小腸で自然免疫を担う「パネト細胞」から分泌される物質で、腸内細菌を生かすべきものと殺すべきものに選別し、大腸の中の腸内細菌叢の構成=腸内環境を制御する役割を持つ、と考えられています。つまりαディフェンシンによる腸内環境のコントロールが狂えば、さまざまな病気が起きると考えられるのです。

 北海道大学はαディフェンシンの研究を世界的にリードしており、マウスを使った実験で、腸内細菌叢の組成異常(腸内環境の悪化)とαディフェンシンの分泌低下に相関関係があることを初めて証明しました。これは、腸内環境の悪化が原因で起きるとされているさまざまな生活習慣病のリスクの指標=ものさしとして、αディフェンシンが使えることを示しています。

 今後は、北海道内の自治体と連動し、「健康ものさし」としてのαディフェンシンの役割を深めていくことが計画されています。そして「自分は何を食べれば健康になれるのか」「自分は何を食べれば病気を予防できるのか」を個別に判断できる、より進んだ予防医療の道をひらくことを目指しています。

地域の健康を追い続ける「健康コミュニティ」

 全国初の「健康経営都市」を宣言し、「『食と健康の達人』拠点」との関わりが深い北海道岩見沢市では、健康にかかわる大規模、長期間の追跡調査が計画されています。

 既に2016年1月から3月まで、同市内のドラッグストアに体組成計、骨密度測定器、自己採血キットなどを準備し、地域の人たちが自由に自分の健康状態を無料で計測できるサービスを展開しました。これらの取り組みも今後幅を広げて継続し、地域の健康状態を広く長く見続ける取り組みにする予定です。