「調べるっていう作業自体が好きなんですよ」

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 最先端の電子ブックが隆盛になると、そういったオーラとの出合いとは無縁になりますね。

 「たとえば、東京堂書店の『店長のおすすめの棚』ってのをながめていると、世の中の関心の向かう先、世の中の動きが背表紙からわかってくるんですよ。そこからいろいろなことを考えるわけでさ。そういう楽しみは、これから一体どうなるんだろう、とも思いますよ。

 読書という行為は抽象的なことだと思うんですよ。その抽象的な営みが本という形として残るんだ、と。とすると、電子ブックはどうなんだろうか。それに簡単に手に入れたものは、簡単に忘れてしまうのじゃないでしょうか」

 そうした逢坂さんのこだわりは作品の登場人物にも反映されていますか?

 「御茶ノ水の現代調査研究所の岡坂神策、彼はそういう人物ですね。(筆者注=岡坂シリーズは『クリヴィツキー症候群』『ハポン追跡』『あでやかな落日』『墓石の伝説』など)史料や関係者の記憶などをたどっていって、もしかしたらこういう隠された物語もあるんじゃないかというのを徐々に組み立てていくんです。岡坂を使って、だれも知らない、だれも書いたことのないエピソードを、人間を描くのは楽しいですね。調べるっていう作業自体が好きなんですよ」

 歴史的な事件や実在の人物を登場させ、そこに新たなエピソードをからめていく作品もたくさんありますね。

 「ぼくが書いているのは小説だから、歴史的価値という点では研究者には黙殺されてしまうのだけど、そういう人たちが重視する史料が本当に歴史の真実を伝えているかどうか、わからないと思いませんか。

 後の時代に残った史料なんて、結局、勝者が自分たちを正当化して都合良く書いたものが多いでしょうからね。スペインの独裁者フランコというと悪の存在という歴史観が定着しているけど、単純にそう決めつけていいのだろうか。歴史というのは、史料も大事ですが、想像力や推理力を駆使して組み立てるべきものなんですよ」

 「日本人の目で見た欧州での第二次大戦を描こうとする時にぶつかるのは、日本の情報機関に所属した人や外交官が残した史料がそもそも乏しいということです。それに比べ、欧州の外交官らは回顧録などの形で克明な記録を残しています。日本のスペイン公使がスパイ活動をしていたとか、ナチスドイツがイギリス国内に送り込んだスパイに資金を渡すのに日本人の駐在武官を仲介役にしたとか。そのスパイはすでにイギリス側に寝返っていたから筒抜けなんですね。

 書き残したものがないとなると、記憶に頼るしかない。で、なんとか、そうした人物を史料などから割り出して、現在の所在地もたどっていって、よしインタビューできるぞ、と思ったら2カ月前に亡くなっていたなんてこともありましたね」

  • JT
  • 日本推理作家協会