「すべてハッピーエンド」

今こそ、ミステリーはどうあるべきかを考え直さねばならない

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 日本推理作家協会は今年2017年、創立70周年を迎えた。先々月10月に東京都内で記念イベントを開き、阿刀田高、北方謙三、大沢在昌、逢坂剛、東野圭吾ら歴代理事長が登壇してのトークショーが、ミステリーファンでいっぱいの会場を沸かした。その組織の現在のトップ、代表理事を務めているのが作家、今野敏さん(62)。現役の売れっ子作家なのに、無報酬の?大役を3期6年の任期にわたって今も務めている。インタビューは、まことにご苦労様です、というあいさつから始まった。

 創立70周年記念イベントが終わった今、どんなお気持ちですか。

 「ホッとしました。理事長役(現在は代表理事)は今までは通常2期4年でしたが、70周年事業を準備していたのが自分でしたので、それを次の代表理事に丸投げするわけにはいかないと、もう1期することになりました。今までで3期やったのは、私と佐野洋さんの2人だけですね」

 協会のトップという役を引き受けて、メリットといいますか、よかったことは何ですか。

 「やはり名誉です。非常に光栄なことですよ。なにせ初代理事長が江戸川乱歩で、それ以来、そうそうたる推理作家たちの流れが脈々と続いてきたわけですから。この協会ができた初期の役割は、当時マイナーだった推理小説というジャンルをいかに高め広めるか、というものでした。それが今やミステリー小説はエンターテインメント界の中核であり代表格となっており、こういう言い方はいやらしいかもしれないけど、いろいろな文学会の中で推理作家協会が一番金を持っている。まあその分、責任もありますね。日本推理作家協会が主催する公募の江戸川乱歩賞で多くの新人作家を発掘して、そこからデビューした人は一流作家の仲間入りをしている。そういう組織のトップには、なかなか就けるものではないので、非常に名誉に思っております」

 一年に何冊かの新作を出版する現役作家として多忙な日々の中、代表理事の仕事であちこち行くこともあるんですか。

 「そうそう、もう一つメリットがありました。今まであまり会わなかった人と会ったり、個人としては行かなかったパーティーに行ったりしたことです。同じミステリー畑でも、今まで本格ミステリーや新本格ミステリーの人たちとは、そんなに関わりがなかった。それが代表理事として、例えば鮎川哲也賞の授賞式に出席したりしました。我々の協会とだいぶ雰囲気が違いましたね。それに、ふだん会わない出版社の社長たちとも代表理事として会うこともありました」

 江戸川乱歩賞の話が出たので思い出しました。乱歩賞のほか今年はいくつかの賞で「受賞なし」という結果でしたので、ミステリー界は大丈夫か、という声があちこちでささやかれているようですが……。

 「全然心配していません。たまたまいくつか重なっただけだと思います。昔から不作の時期もありましたし、豊作の時期もあり、たまたま今回いくつかの賞で重なっただけだと思います。それに、我々の世代の頃は結構大らかで、出版社の事情も考えて、賞は出そうよ、となったものですが、出版事情が厳しい今は、割と厳しい選考委員が増えたんですね。以前と違って、今はミステリーが人々の間に広まって、当たり前の存在になっている、いわば定着している。そういう今こそ、ここでもう一度、ミステリーはどうあるべきかを考え直さねばならない。油断していると、衰退し拡散する危険性があります。でも、新たな才能は次々と生まれてきていますから、そう気にすることはないと思っています」

 

 私もある賞の選考委員をしたことがありますけど、選考委員会の中でAとBとを推す選考委員ががっぷり四つになって膠着こうちゃく状態になって委員たちが疲労困憊こんぱいの末、じゃあCにしますかとなって、そこで決着するというようなことが過去にあったとか。

 「そう、応募者の運も確かにありますね。作家にとって運は大事ですよ。長い目で見ると、作家も運を味方にしないと生きていけない。それに、どういう経緯があろうと、受賞した作家は間違いなく伸びていきます。受賞によってより多くの読者に自分の作品が読まれる。それが作家のエネルギーになるんですよ。意外とそういう人がヒットメーカーになるんです」

 乱歩賞のような新人の登竜門の賞が、今は結構増えましたね。昔に比べて、若い人にとってはチャンスが多くていいんじゃないですか。

 「でも、新人賞もどんどん増えてバブル状態だと思う。たくさんの受賞者が次々と作家デビューしたら、1人当たりの発行部数が少なくなって売れないですよ。われわれの頃よりも出版点数は増えているのに、今は部数が減っているんですよ」

 全体のパイが増えない限り、新人同士の食い合いとなる?

 「今、出版不況、出版不況というでしょう。そういう言い方はやめなさいと僕は言っているんですよ。今は不況じゃない、と。これが日本の出版界の規模なんだと。一時期売れすぎてバブルを経験したけど、今の状態が日本の市場規模だと気づいて、出版社は早くこれに合わせてリストラなどをした方がいいと」

 今はなかなか若手作家の本が出にくい時代ですが、今野さんの若手時代はどんどん本が出版されていましたね。

 「今の編集者は自主規制しているのか、若手作家に全部書かせると負担になると思ってか、まずプロットを書いて持ってきてくださいと言う。これではダメですよ。それだけではいい小説か悪い小説かわかりませんよ。小説はプロット(あらすじ)、エピソード、キャラクターの3要素でできているので、まず冒頭の50枚の原稿を書いて持ってこいと言わねば。われわれの時代には書き上げた原稿、それを実弾と言っていましたが、実弾を書いて編集者に渡して仕事をしていました。1970年代の短編集などが出ていますが、今読んでも面白い作品が多いですよ。金になるかならないかは別にして、作家はとにかく小説を書き上げるもの。プロット作りだけでなく、文章を書かないと作家じゃないですよ」

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