文章は長ければ長いほど人間の肉声、肉眼に近づいていきます

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 その感動のツボを多くのベストセラー作品からビッグデータで抽出し分析するAI(人工知能)に小説を書かせれば、きっと感動のツボ満載の小説が誕生するだろう、という話がもはや夢物語ではない時代になりつつあるような……。

 「でも、AIが一番苦手とするのが文章読解能力だそうです。とくに長文が苦手とか。さらに文章作成能力も。AIは今後さらに発達するでしょうし、すでにAIによって今の世の中にある職業のいくつかは奪われてしまうという見通しも出ていますが、小説の書き手と読み手だけは、このままずっと人間でい続けるはずです」

 長文を読むのが苦手と聞いて思い出しました。私がジャーナリズムやマスメディアについて話をしに行っている大学の教室では、新聞記事はまだしも、雑誌の長い記事や評論を読むのが疲れる、きついという学生が結構いるんです。といって、ツイッターやラインなどでは毎日短文をやり取りしているから、若い世代の文章離れや活字離れともいえない。どういうことなんでしょうね。

 「僕の個人的な考えでは、文章は長ければ長いほど人間の肉声、肉眼に近づいていきます。たとえば『あっ!』なんて、すごく短いから、文字と肉声が最も遠いですよね。だから、肉声や肉眼を重要視しない人は、どうしても文章も重要だと思わなくなってしまう。作家と編集者との関係も、今ではメールでの文字のやり取りだけで済んでしまうことが多いですけど、今の僕の編集者は僕の考えをわかってくれていて、時々電話で肉声を聞かせてくれる。そうすると、言葉のキャッチボールをしているうちに、ボールが斜めとか、予想もしない方向に飛んでいって、新しいアイディアに出会ったりするんです」

 道尾さんはSNSなど利用していますか。

 「してますよ。新しいものが好きなので。このあいだ出たiPhoneX(テン)も、すぐに手に入れたり」

 ツイッターなども活用しているんですか。

 「やっています。たまに作家志望の若者が質問をしてきて、それに答えているうちに自分も勉強になったりします」

 ツイッターと言いますと、昨年神奈川県座間市で露見した9人遺体遺棄事件では、自殺したいというメッセージを出した若い男女が、ツイッターなどでつながった男に殺されるという痛ましい結果になりましたし、言葉のやり取りが熱くなって炎上するケースも珍しくなくなりました。

 「確かにカッとなって熱くなるのは若い世代に多いようですね。目上の人に失礼な質問をたり、敬語も使わずに文句を付けたり反論したり、しかも早いレスポンスでやるからクールダウンする時間がなくてエキサイトしてしまう。僕は自分のルールを持っていて、目の前に本人がいたら言えないことはSNSでも書かないようにしています。当たり前のことなんですけど」

 肉声・肉眼派らしいルールですね。若い世代へのメッセージはありますか。

 「一番強く思うのは、勇敢であってほしい、ということ。ツイッター上で顔が見えない状態で相手に手厳しいことを書いても、それは勇敢じゃない。面と向かって自分の言いたいことを言える人が減っているように思います。これは小説に関しても言えることで、勇敢な読者が減っている気がするんです」

 と言いますと?

 「例えば、面白い本を読みたい読者がいる。でも何を読んだらいいか、予備知識も地図も持っていない。そういうとき、アマゾンのレビューを見て、星が少ない小説だと買わなかったりする。星の少ない本=つまらない本、と決めつけてしまう。つまり損をしたくないという感覚なんですね」

  • JT
  • 日本推理作家協会