interview
人間国宝・神田松鯉が語る
人を惹きつける話法と人材育成論

「今講談が来ている!」という言葉を聞いたことはないだろうか? 講談ブームの火付け役になったといわれているのが神田阿久鯉・鯉栄・松之丞さんといったさまざまなメディアで活躍される方々だ。そうした今注目の講談師を弟子にもつ神田松鯉先生に人材育成論や、ビジネスにも役立つ人の心をつかむコツについて話をうかがった。

失敗は誰にでも起こること。
それを忘れなければ乗り越えられる

忠臣蔵のような多くの登場人物が出てくる話を筆頭に沢山のネタを持っていると、似たような登場人物が出てきて混乱しそうに思うがそんなことは「めったにない」という。そんな松鯉先生でも今までに続きを忘れて高座を降りたことがあったそうだ。

どうしてもごまかしきれなくて高座を降りたことが二度ありましたよ。 “すみません、忘れました”って謝ってね。でも誰でも一回や二回そういうことを経験しているから。私だけじゃないし誰にでも起こること。話を忘れるなんて本当はよかないけど。

実は一回はね、自分の独演会の時だったんですよ。あのときはお客さんがみんな私の味方してくれて、“いいよ!”って気持ちで満場で拍手くれたんだ。そうしたら人間って不思議なもんで拍手もらって続きを思い出したんだよ。

相手の心をつかむのに必要なのは
なによりも事前の情報収集

この会場のお客さんを味方につける話術こそ松鯉先生の真骨頂だ。人の心をつかみ場の雰囲気を作ることが芸を磨いていく上で重要だといえる。松鯉先生のように人の心をつかむための秘訣はあるのだろうか?ビジネスの場でもよくある悩み、“商談に入る前に相手の心をつかむ話題選び”についてうかがってみた。

高座で枕を話すときには季節に触れたり、その場の空気でぱっと思いついたことを話したりで特に意識してることって実はないんですね。でもビジネスの場であればやっぱり相手をどれだけ勉強しているかじゃないですかね。寄席の場だといろんな人が来ていますから個人に絞るわけにはいかないけれど、ビジネスだと決まった相手がいる状況でしょうからその相手のこと・会社のことをいかに勉強しておくか。事前の情報収集が大事なんじゃないでしょうか。そのためには御社の仕事っていうのが非常に寄与しているんじゃないですか?

実際にクリッピング会社のことを調べてインタビュー中に触れることで情報収集が人の心をつかむことを示してくれた松鯉先生は、普段どのように情報を集めているのだろうか?

私たち講談師にとって本が命ってところがあるんですよ。昔からの芸を引き継いでいくためにはやっぱり基礎教養を積んどかないとダメなんです。昔は年間数十万円って金額を書籍代に使ってましたから。ビジネス講談をやってたときは大学の専門家に話を聞きにいったりしていました。新聞も毎日読んでますね。松之丞のことを書いてくれたりしているんで毎日新聞も読んでます。

今講談界に起きている変化。
発展のために必要なものとは?

歴史のある芸能に変化はご法度だと思われがちだ。しかし講談は意外にも時代に合わせて話に手を加えているそうだ。家名や名誉を重んじる時代から何百年という時を経て、現代に合わなくなった部分を少しずつ変更しているのだという。その時代の変化を感じ取るのに新聞は最適だと話してくれた。そうやって代々受け継がれてきたものをお弟子さんに引き継ぐのも師匠の役割だろう。現在8人の弟子を持つ松鯉先生に人を育てる上で大切にされていることをお聞きした。

弟子を育てるってことは個性を育てるってことだと思うんですよ。講談が上手くなることっていうのはもちろん必要なんだけれども、同時に個性を引き出してやるっていうのが師匠の役割じゃないですかね。芸とは究極的には個の確立ですから。

伸びる子っていうのは、言われたこと以外になにかをやっているんです。おれから言われたことを忠実にやっているだけじゃそこで終わっちゃうんだよと。「こうありたい」という希望の柱を常に持っていたほうがいいよと伝えていますね。弟子がやりたいと思ったことを阻害はしませんから。

今講談界にも変化は起きていて、それは松之丞のような子が出てきて変化を起こしてくれていると思います。ああいう子が呼び水になって新しいお客さんを集めてくれる。そうして現在、講談界で唯一の人間国宝である一龍斎貞水先生のような方が再認識されるっていう流れができるといいんですよね。松之丞みたいなのがどんどん新しい客をよんでくれて、そのうちもっと新しい子が出てきてやがては松之丞が今の貞水先生のようになれば一番いいじゃないですか。今の形はきわめて健全な発展の仕方だと思いますね。

ご自身のことだけではなく講談の世界全体の発展を目指している姿勢があるからこそ今の講談ブームが起きているのではないだろうか。最後にまだ講談を聞いたことがない人に向けてメッセージをいただいた。

講談って圧倒的に食わず嫌いの人が多いんです。講談の存在も知らなかったりね。今ひそかに講談がみなさんに気付かれつつあるんで、その流れにのってとりあえず寄席に来てください。聞いてみればおもしろいですよ。

記事内容は2019年4月に行った
インタビューを元にしています。
インタビュー・文
(株)内外切抜通信社 乙川由佳