

長寿化社会、国民皆保険など、共通する社会背景を持つ日本とスウェーデン。ところが歯の寿命においては、両国の間で大きな差があります。
図1は、年代ごとに現存する歯の本数を、日本とスウェーデンで比較したものです。40歳代では日本がやや優勢ですが、50歳代で逆転し、80歳代では大差。80歳代の日本人は、平均で13本しか歯が残っていません。
こうした格差を生み出す理由の一つが、歯の治療スタンスの違いです。歯をむやみに削ったりすると、かえって歯の寿命を縮める原因になることをご存じでしょうか。治療を必要最低限にとどめると、結果として歯を長持ちさせることになるのです。
スウェーデンの歯科医の多くは、「手を動かすことより、歯を診ること」に力点を置いています。治療を行う場合は、できるだけ侵襲(生体へのダメージ)が低く、エビデンスがある治療方法を選択し、長期的な視点で大切な歯を守るのです。


歯の寿命を伸ばすには、歯の健康の維持が欠かせません。図2は、日本とスウェーデンにおける12歳児のDMFT指数(虫歯、喪失歯、治療歯の本数を表す指数)の比較です。1970年代のスウェーデンでは虫歯に悩む子どもが多く、日本よりも状況はよくありませんでした。
1970年代後半から状況が改善されているのは、この頃に行われた歯科医療改革の成果です。
かつてのスウェーデンの歯科医療は、現在の日本と同様に、「歯が悪くなってから治療する」スタイルが一般的でした。しかし、1970年代に「予防重視」の治療スタイルへと転換。これにより、虫歯と歯周病を大幅に減少させることに成功したのです。
その立役者は、スウェーデン・イェテボリ大学のヤン・リンデ名誉教授。現在では歯周病学の世界的権威として知られ、日本の歯科医療の発展にも多大な貢献をしています(2013年 旭日中綬章叙勲)。


むし歯と歯周病の口腔二大疾患は、プラーク(歯垢)と呼ばれる、歯に付着する細菌によって引き起こされます。そのため、日常的なプラークコントロール(プラークの除去)が、歯科疾患の予防に効果的です。
プラークコントロールの方法として、最も身近な方法が「歯磨き」。しかし、自分で歯磨きするだけでは十分ではありません。歯磨きにかける時間は、むしろ日本のほうがスウェーデンよりも長いという調査結果もあります。
日本とスウェーデンの差を決定づけているのは、歯科定期検診の受診率です。スウェーデンは80%以上、日本は10%未満(日本臨床歯周病学会調べ)と大きな差があります。日本では「予防のため」に歯科に通う習慣がまだ定着していませんが、悪くなってから慌てて歯科に行くよりも、先手を打つほうがコスパが良いことは明らかです。


定期的に歯科検診を受けることで、歯磨きをはじめとする自宅でのセルフケアを補完することができます。
歯と歯肉の境目、歯肉の中にあるプラークは、日頃の歯磨きだけではなかなか除去しきれません。どれだけ頑張って磨いてもプラークの50-60%しか除去できません。この放置されたプラークが口腔疾患の原因になるので定期的歯科受診で自分では取り切れない部位をしっかりきれいにしてもらうことが大切です。
また、自分に合った歯ブラシの選び方、磨き方、歯間ブラシの活用方法などを学び、セルフケアの質を高めていくことも大切。歯並び、歯磨きの癖、食習慣など、歯を取り巻く環境は人によって異なり、予防のプロである歯科衛生士のアドバイスが欠かせません。今まで自己流で歯磨きをしてきた方は、自分ではできてるはずと思っても、ぜひ一度、歯科衛生士に診てもらうことをおすすめします。