インタビュー:映像制作から学ぶメディア・リテラシー 文学部広報メディア学科 五嶋正治准教授

 ◇映像制作の実践で生まれる学生の変化

 新入生は、今まで「メディアの受け手」としての経験を経てきています。そして、さまざまな学習の中から、「メディアの発信者」としての経験も学び始めます。一つの番組を制作する過程には多くの準備と複雑なプロセスが存在します。その過程で不可欠なことは、一緒に手伝ってくれる仲間の存在です。その完成までの道程では、多くの仲間の協力無くしては完成できません。完成した瞬間には、その映像制作という学習以上に、仲間に対する感謝の気持ちがわいてきます。

被災した三陸鉄道大船渡市内の踏み切りを取材する学生 (2011年5月)

 「皆が手伝ってくれたから完成できた」という気持ちが伝わって来ます。「協調性教育」、これも私の実践の大きな柱でもあります。

 先月3月11日の大震災から1年のその日、学生たちは、「3.11震災特別番組」の企画を半年前から準備していました。昨年5月から何度も通っている岩手県大船渡市の子どもたちと、3月11日の2時46分という震災の瞬間を共有する番組です。

 学生たちは、提携している平塚のケーブルテレビ局に2時間の生放送枠を協力していただく交渉に挑みました。「2時46分を含む午後1時からの2時間が欲しい!」。3月11日の大切な日の一番重要な時間枠を学生たちは獲得できました。

 当日は、岩手県大船渡市、東海大学のキャンパススタジオ、そして平塚市内の3元中継で、大船渡市内に響く「鎮魂のサイレン音」をバックにした1分間の黙とう場面も見事に中継できました。2時間という社会的にも責任ある生放送を終えた瞬間の数十人の学生たちの号泣に、その映像制作実践の効果を感じました。

◇番組制作で教員の役割とは

 学生がゼロから作り上げてこそ、学生の番組であり、「達成感」という学びの集大成を得る事ができます。私は自分を「Teacher」ではなく「Facilitator」と称する時があります。学びを教えるのでは無く、学びの環境を整えている仕掛け人である。学生たちが熱中して学びの世界に飛び込み、疑問や情熱を傾けてくれる「映像制作」という環境を整備しているのだと感じます。もちろん、議論もしますし、指導もします。しかし、学生たちと教員の協働作業が始まらない限り「教育的効果」は薄いと思っています。

◇世界に向け、映像メッセージを発信

 2012年8月3日には、日本ユニセフ協会主催で映像コンテスト“One Minute Video”が初めて開催されます。東海大学の授業では、映像制作の基礎を学ぶ授業として実践し、既に多くの学生が1分間の作品を制作しています。

 この実践では、映像制作、メディア理解、国際理解、異文化理解といったさまざまな学習要素が含まれています。世界にメッセージを発信する作業では、その受け手である、世界の事を理解する必要があります。身近なテーマで発想した企画でも、国際的にはどのように理解され、受け止められるだろうか?といった学習。そして、その1分間の作品には、極力、言葉の使用を避ける課題を設けます。多くの国々の若者たちが共有するウェブですので、その特定の言語に頼ることは避けて、ユニバーサルな表現としての「映像表現」で完成することを目標にします。

公益財団法人 日本ユニセフ協会
“One Minute Video”
〜世界に届けよう1分間のメッセージ

http://www.unicef.or.jp/oneminute/index.html

 「メディア・プロダクション・スタディーズ」の研究でも、“One Minute Video”制作過程の学習効果には高い評価を感じています。企画立案の過程では、国際理解、異文化理解、プレゼンテーション・スキルなど多くの学習が伴います。映像制作過程では、協調性と判断力が求められ、撮影の過程では、視聴覚機器の取り扱いから、撮影プロデュースといった段取りなどの実務経験も学びます。そして編集、仕上げでは受け手に立った客観的な判断力などが育まれると思われます。

 たとえ1分間の映像と侮ることはできない、多くの学びの世界がその映像制作の過程に広がっています。ぜひ、皆さんも“One Minute Video”を制作して、コンテストに応募して下さい。現在、“One Minute Video”コンテストは、五つの大学の学生たちが連携して学生事務局を、日本ユニセフ協会内に設置して開催準備を進めています。


東海大学文学部広報メディア学科
五嶋正治准教授
(ごとうまさはる)1954年7月14日生まれ。日本文化を海外に紹介するドキュメンタリー番組の国際共同制作に長く携わり、20年間で50カ国以上の国々へ100以上の番組を放送。2002年より教育現場とも関わり「映像制作を通じたメディア教育」のカリキュラムを作成、実践的な授業を行っている。現在、東海大学では、「映像制作基礎」「メディア・リテラシー教育」「映像表現論」等の授業とともに、指導している学生主体のドキュメンタリー番組、インタビュー番組は、全国14のケーブルTV局で放送されている。2011年夏に学生達と大船渡で行った「こどもテレビ局プロジェクト」は、テレビ朝日のメディア教育番組「はい、テレビ朝日です」で紹介された。 2010年より、日本ユニセフ協会との共同事業”One Minute Video”プロジェクトを開始し、全国の教育機関に映像制作を通じたメディア教育の働きかけを行っている。 1977年、日本大学生産工学部土木工学科卒業、卒業論文は「中央高速道路の路線設計」。 日本教育メディア学会会員、異文化間教育学会会員。

・関連リンク:東海大学文学部広報メディア学科
http://www.u-tokai.ac.jp/undergraduate/letters/media_studies/index.html

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