建学75周年に思う
世界に存在感を示せる大学に

    東海大学
山田清志 学長

 ◇グローバル化の鍵は中間層

 ――大学のグローバル化についてのお考えをお聞かせください。

 東海大学は国内の評価より海外の評価の方が高い大学です。2000年代、東海大学は世界大学ランキングで500位以内に入っており、一番高いときで総合226位、理系部門では86位でした。

 当時は世界大学ランキングに入っている大学は欧米の大学だけでしたが、最近はアジアの大学が怒濤(どとう)のように入ってきており、どん欲にグローバル・スタンダードを取り入れています。しかし、日本はグローバル・スタンダードの導入に出遅れており、日本の大学は世界のトレンドから取り残されています。その一例を挙げると、日本は4月を新学期にしており、以前あった9月入学という議論は尻すぼみになりました。

 残念ながら現在のところ、グローバル・スタンダードとはアメリカン・スタンダードだと思っています。英語での発信力もその理由ですが、かといってイギリスが世界大学ランキングの多数を占めているということではありません。500位以内にランキングされているイギリスの大学は約50校、しかし、アメリカは150校ほどランクインしています。その理由は、アクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)制度によって、アメリカの大学はグローバル・スタンダードに叶う判定基準を備えているからでしょう。「スチューデント・アウトカム(学習成果)」や学生に親切な「スチューデント・フレンドリー・システム」などを用意していることがその要因と考えられます。

 今後は、日本の大学もグローバル化を加速していく必要があると思います。その意味では一部の上位層の大学ではなく、日本全体として大学がどれだけグローバルに活躍するかが鍵になると考えています。その理由は、これから多くの大学を卒業した者が日本のグローバル企業を中心的に支えることになるからです。企業を支えるのはトップランナーだけではありません。中間層の活躍が必要不可欠になってきます。

 英語を話している時に、例えば「三人称単数のSが抜けている」といった細かな部分を気にする必要はありません。多少文法が間違っていても、相手に意味は通じます。英語を話すことはあくまでも手段であり、目的ではありません。細かなことを気にしすぎない、図太い神経の持ち主を育成していくのが、これからのグローバル化に向けて、日本の全ての大学のミッションではないでしょうか。それを裏付けるのがアメリカのアクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)だと思います。

 東海大学としては、このアメリカのアクレディテーションの取得を目指したいと思っています。東海大学のモットーは「先駆けであること」です。アクレディテーションを目指すことも、我々にとっての「先駆けであること」であります。

 ◇QOLに資する人材を

 ――来年4月に開設される「文化社会学部」と「健康学部」の目的は何ですか。

 2018年は75周年から100周年へ向けてのキックオフの年です。新しい節目に向かう第一歩として、新たに「文化社会学部」と「健康学部」を開設します。2018年度改組の根幹をなすのは、「QOL(生活の質)の向上に資する人材を育成する」「東海大学そのものが生活の向上に資する大学でありたい」ということです。一方で大学をマーケティングしていくという観点からすると、今までに付いている「理系」「スポーツ」といった東海大学の既存のイメージに新たなイメージをどう重ねていくかという事も重要な課題です。そこで、何をキーワードにするかという時に、今後東海大学が目指すものは「健康」「QOL」であると考えました。

 文化社会学部の目的についてですが、もともと東海大学は工学部と文学部から始まりました。現在の文学部は、人文科学系と社会科学系の様々な領域を拡大して大きくなった背景があり、純粋な人文科学系と言われる文学や哲学といった分野に、社会学や心理学、地域研究学などが追加されていきました。来年度の改組では、広範囲となった文学部を機能に合わせて2つに分け、文学部には本来のイメージに合う4学科3専攻を残し、文化社会学部には実利的な「多文化理解」「言語表現」「メディア」「自立と共生」をキーワードにした6学科を設置いたします。

 文化社会学部には地域研究系として、アジア学科、ヨーロッパ・アメリカ学科、北欧学科の3学科を設置します。学科構成を見ると、なぜ北欧なのかという疑問が生じるかもしれません。しかし、それこそが文化社会学部とQOLをつなげるキーワードです。

 歴史を紐解くと、創立者の松前重義博士は、デンマークの教育による国づくりの歴史に啓発され、1936年に東海大学の母胎となる望星学塾を開設いたしました。1968年には、後の大平正芳首相と土光敏夫経団連会長と共に、スウェーデン社会研究所を創設いたしました。この時期は高度経済成長が終焉し、その矛盾が出てきた時だったと思いますが、松前重義博士はこれから先の日本は北欧に学ぶことが多いのではないかと考えました。

 改組を検討する上で文学部北欧学科については、文化社会学部のヨーロッパ・アメリカ学科の中に北欧コースとして設置するか、独立した北欧学科として残すかの議論を重ねました。最終的には、東海大学が目指すQOLの方向性と、歴史的に関わりが深い北欧の位置づけを明確にするということで、文化社会学部北欧学科という独立した学科として残すことで結論を出しました。

 現在、日本では月末の金曜日はプレミアムフライデーですが、北欧では毎週がプレミアムフライデーのようなものです。金曜の午後3時ごろには誰も働いていません。しかし一人当たりの生産性は高く、生活にも余裕があります。出生率も低くなく、年金も破綻していません。これからの日本にとって、再考・再評価しなければならないのは北欧の社会や文化であり、我々のQOLにもその知見が生かされるのではないでしょうか。日本社会と北欧社会の違いを比較しながら、現在日本が抱えている社会問題を考えていきたいと思います。

 一方、健康学部は健康に関する包括的な人材を作ろうというのが目的です。管理栄養士、心理カウンセラー、社会福祉士といった専門に特化した人材を作るのではなく、これから日本が迎えようとする人類史上未曽有の急速な高齢化と、それに起因する諸問題を解決していける人材育成を主眼に置いています。即ち、科学的なエビデンス(根拠)に基づく食・栄養、運動・エクササイズ、メンタルヘルスに関する専門知識や技能を修得すると同時に、コミュニティ福祉や社会・経済学などの社会学的な知識をベースとしたマネジメント能力を養成し、家庭や学校、自治体、企業などそれぞれのコミュニティに必要なゼネラリストの育成を健康学部は志向していきます。

 日本は世界の中でも少子高齢化という大きな問題に早くから直面し、現在も急速に進み続けています。若者が少なくなり、高齢者が増えていくことは、日本経済や医療に与える影響だけでなく、文化や人々の生き方が変わっていくことを意味しています。厚生労働省では「2035年、日本は健康先進国へ。」というビジョンを発表し、世界に先駆けて日本全体でこの問題に向き合おうという姿勢を示していることからも、健康学部が果たす役割は大きいと考えております。

 社会で健康へのニーズが高まり、人々が考える「健康」の形も変わりつつあります。従来の身体的健康や精神的健康だけでなく、社会的健康という新たな枠組みを総合的に捉えることが、健康をマネジメントする力をより現実的な技術にしていくことに繋がります。まだ日本には健康学部という学部は一つもありません。東海大学が最初であり、4年後には日本で最初に「健康学士」という学士号を持つ卒業生が世に出て行きます。

 ――100周年に向け、東海大学はどのような大学を目指しますか。

 一言で申しますと、世界に存在感を示せる大学を目指します。日本の大学そのものが世界に存在感を示せていません。トヨタやホンダなどの日本企業の名前は、世界中の人々が認知し、存在感を示せていますが、日本の大学の名前を思い浮かべる人はどれほどいるでしょうか。これからの社会が知識集約社会であるならば、それを担う一つの大きな組織として、大学が世界に存在感を示さなければならないでしょう。私たちはそれを目指して100年の頂に向かってまい進していきたいと考えています。

東海大学学長
山田 清志
学校法人東海大学常務理事。東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻単位取得満期退学。東海大学副学長などを歴任し、2014年10月より現職。

オピニオンの一覧