10月17日~23日は「薬と健康の週間」 薬と健康を考える
家族の健康のために役立てたい「お薬」。インタビューとコラムでこれからの付き合い方をご紹介します。
インタビュー
Interview
距離が縮まった市民と薬剤師
専門性や対応力がより重要に
日本薬剤師会 副会長
田尻 泰典さん

新型コロナウイルス感染症の広がりで、クローズアップされることが多くなった「薬と健康」の問題。市民がそれを最も身近に相談できる窓口でもある薬局は、今後どのような役割を期待されるのでしょうか。17~23日の「薬と健康の週間」(主催・厚生労働省、日本薬剤師会など)に合わせ、日本薬剤師会副会長の田尻泰典さん(65)に伺いました。

日本でコロナ禍が始まって2年半が過ぎました。薬局の利用に変化はありましたか?

いろいろ変遷しましたね。初期の頃は皆が外出を控え、慢性疾患がある方も薬局に立ち寄りづらくなっていました。それが徐々に戻ってきて、昨年のデルタ株流行後は行動制限緩和に向けた「ワクチン・検査パッケージ」の一環で、薬局にも無料検査所が設けられるようになりました。都市部の狭い店舗は、スペースの確保に苦労したと思います。第6波以降は自宅療養者が増え、治療薬の説明を電話で行い、患者宅に配送するという業務の重みが増しました。

これまで薬局は「処方箋がないと入りづらい」というイメージも持たれていました。ですがコロナ禍で、薬剤師が感染防止策をアドバイスしたり、ワクチン接種に関する相談をお受けしたりと、公衆衛生の分野で役割を担う場面が多くなりました。その分、市民との距離は縮まったのではないかと思います。

使い古された言葉ですが、薬剤師は「街の科学者」で、薬局は「よろず相談所」だと考えています。地域住民一人一人のバックグラウンドを知った上で「ゆりかごから墓場まで」の全ライフステージに関わるのが我々の仕事です。私が経営する福岡県の薬局では、もともと小児科の処方箋取り扱いが多かったこともあり、親、子、孫の3代にわたって利用してくださっている地元の方もいます。

そうした幅広いサポートをする「かかりつけ薬局」の役割に加え、専門性も求められるようになっていますね。2016年10月からは「健康サポート薬局」、2021年8月からは「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の認定制度も始まりました。

地域連携薬局は、かかりつけ薬局、在宅医療の機能に関して一定の基準を満たす薬局です。具体的には、通院時の薬物治療はもちろん、入退院の際の円滑な薬物治療の引継ぎや、在宅医療においても、医療機関等と連携して、患者さんの薬物治療を一手にサポートできる体制や実績があります。

また、高額な新薬が次々と登場し、薬局が地域で果たすべき責任は重くなっています。医療機関と同様、専門的な機能も高めていく必要があります。こうした高度な薬物治療を担う薬局が専門医療機関連携薬局として認定されてきています。今は対象疾患ががんだけですが、これから広がっていくでしょう。例えば小児の特殊な疾患は、ケアする親御さんの不安感も強く、専門知識を持った薬剤師がいれば心強いはずです。

健康サポート薬局は、かかりつけ薬局の機能に加えて、市販薬や健康食品に関することはもちろん、食生活などの健康相談、地域の介護や健康づくりに関する仕組みなども気軽に相談できる体制や人員について、厚生労働省が定める一定の基準を満たした薬局です。

一方で、令和元年の医薬品医療機器法改正で薬局の定義が「地域で必要な全ての医薬品の供給拠点」と明確化されたように、どの薬局も住民の健康をサポートし、医療機関につなぐ役割を持っていないといけません。ただ、個々のマンパワーの問題もあるので、医師が専門領域のドクターを紹介し合うように、薬局も得意分野を持って連携を高めていくことで、より薬局を上手く利用していただけるでしょう。

医療はデジタル化が急激に進んでいます。

オンラインによる診断、薬の処方、服薬指導は、コロナで加速した面もあります。患者さんの顔色やにおい、ちょっとした受け答えなど、対面でないと得にくい情報があるのも確かですが、人口減少で薬局のない地域が増えている現状も踏まえ、どこにいても必要な医薬品、薬物療法が提供できるよう、ICT(情報通信技術)活用に取り組んでいきたいと考えています。

これからは情報がつなぎ合わさることで、ヘルスケアのビッグデータが誕生します。私たちはプロとしてそれを上手に使い、利用者に役立てなければならない。現場の業務は大きく変わるでしょう。薬剤師は「亀の甲羅(化学式)」だけ分かっていればいい時代ではないのです。

コロナ禍では、先の不安もあって、マスクや検査キット、特定の解熱剤などを市民が買い求めて品薄になることがありました。パニックに陥らないよう、どうコントロールしていけばいいと思いますか?

第一に、マスコミ報道のあり方でしょう(笑い)。「情報に素直に飛びつく」という国民性があるかもしれません。「あれがなければ、これがありますよ」といった情報を早めに伝えるのも、専門家たる薬剤師の責任です。新型コロナは流行が見通せず、症状の出方もまちまちです。不安を解消するのに、遠慮なく街角の薬剤師を頼ってください。学校教育も大切で、養護教諭とコミュニケーションを取りながら、正しい知識を普及する手伝いをしたいと考えています。

利便性と同時に高まる薬剤師の役割

2022年4月から新しい仕組みとして、「リフィル処方箋」が導入された。

従来、症状が安定している患者であっても、薬を受け取るためには、医療機関を受診して、処方箋を受け取る必要があったが、一定期間内に処方箋を繰り返し利用して薬を受け取っても大丈夫と医師が判断した患者に対しては、3回まで使用可能なリフィル処方箋が発行され、リフィルを行った場合、直前の受診なく、薬局で薬を受け取ることができるように改められたのが、この仕組みだ。医師が患者の症状等に鑑み、処方箋の様式に「リフィル可」と記入すれば利用できる。ただし、投薬量に制限がある向精神薬の一部や湿布は対象にならない。

リフィル処方箋は患者の利便性を高めるだけでなく、受診回数が減ることによる医療費抑制への期待もある。財務省は、普及により医療費全体の0.1%縮小を見込んでいる。

日本薬剤師会の田尻副会長は「医師の判断次第だが、リフィルという仕組みは自然と広がっていくだろう」とみる。その分、薬剤師は「薬を漫然と渡すのではなく、責任をもって患者を観察し、主治医にフィードバックしていく必要がある」と指摘する。

薬剤師・薬局の上手な活用法
第1回
コロナ感染症とセルフメディケーション

コロナ禍で、マスク着用や手指の消毒など毎日の生活様式が変わりました。特に第7波で感染者数が大幅に増えていることもあり、毎朝出かける前に、ご自身やご家族の健康チェックが欠かせないという方も多いのではないでしょうか。

オミクロンBA.5株の症状は、主に発熱、喉・咽頭痛、鼻水、倦怠感と言われており、これらの症状がみられるようであれば感染を疑い、抗原検査キットの使用やPCR検査の実施など、感染症罹患の確認をしていただくことになります。そして、受診までに時間がかかりそうな場合や、症状を取り急ぎ抑えておきたい場合は、市販薬での対応を検討する必要があります。対症療法ではありますが、市販の解熱鎮痛薬や咳止め薬の服用が症状によっては効果的です。また、重症化を予防する効果があるとされるコロナワクチンの複数回接種についても、ワクチンの有効性と副反応のリスクを十分に考え、ご自身で接種するかしないかの判断をする必要があります。

こういった感染症対策は、セルフケア・セルフメディケーションと言えるのではないでしょうか。自らの体調に関心を持ち、自らの症状に対して市販薬を使うことや、予防のためにワクチン接種をするなど、このような行動変容もコロナ禍で見られるようになったことです。

薬剤師・薬局は、ご自身の体調や生活環境に合った市販薬をアドバイスすることや受診勧奨も含めた対応をします。また、受診の際、病状の経過や、どの市販薬を使用したか等の対処内容とその結果を医師に正確に伝えることが重要で、そのお手伝いもできます。感染症の正しい情報の確認や薬に関する懸念や疑問などがあれば、ぜひお近くの薬剤師・薬局にご相談ください。

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セルフメディケーションって何?
第2回
マイナンバーカードで保険証&お薬確認

皆さん、マイナンバーカードのお手続きはお済みでしょうか?

すでに多くの皆さんの取得が進み、いろいろな場面で利用できるようになってきています。例えば、医療機関や薬局では、健康保険証として利用できるようになりました。今後、国は健康保険証を原則廃止してマイナンバーカードへ統一する方針を示しています。医療機関や薬局ではそのための準備(読み取り機の設置など)が順次進められています。

さて、マイナンバーカードをお持ちの方には、パソコンやスマートフォンで利用できる「マイナポータル」というウェブサイトが用意されます。そこでは、医療機関内で使ったり薬局で受け取ったりしたお薬の情報(注射や点滴等も含む)、健診の情報、医療費の情報などを確認することができます。これらの情報は、皆さんの同意の上で医師や薬剤師にも確認してもらうことができますので、さらに安全安心な医療を受けることができます。また、来年には処方箋の電子化も予定されており、その際にもこれらの仕組みが活用される予定です。

ところで、「マイナポータル」というウェブサイトでは、お薬の情報(お薬の名前など)は確認できますが、お薬の飲み方や薬剤師からの注意事項、ご自身で購入された市販薬の情報、アレルギーや副作用の出た医薬品の情報などは「お薬手帳」でしか確認・管理することができません。

マイナンバーカードはこれから便利に活用されていく仕組みですが、「お薬手帳」もあわせて活用することが大切です。

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お薬手帳のご相談はかかりつけ薬剤師・薬局に
第3回
お薬手帳の活用促進 ~持って活かそうお薬手帳~

皆様は、お薬手帳をお持ちでしょうか。お薬手帳は、過去から現在に至るまでの服用薬やアレルギー歴等を記載することができます。さらに既往症や副作用歴など、利用する方の様々な情報が充実することで、より安全に薬物治療を受けることができます。

薬剤師は、処方内容と薬剤服用歴・お薬手帳に記録された過去の副作用やアレルギー歴、併用薬の重複などを総合的に確認して、その方にとって適切な医薬品かを判断します。お薬手帳には、医薬品をお渡しするたびにそれらの記録が追加され、情報が蓄積されています。

また、医薬品を使用して気づいたこと、体調の変化、市販薬やサプリメントなどの情報をご自身で記載すると、薬局での健康相談等にも役立ち、医薬品をより安全に使用するための有効なツールとなります。

お薬手帳を活用することは、診療を行う医師にとっても同様です。お薬手帳に記載されている情報を含めてその方の診察を行うことで、より的確な診断が行えます。また、救急搬送時や災害時にも、普段飲んでいるお薬を正確に把握することができます。

お薬手帳は薬局で活用されるのみならず、様々な場面で安全な医療のために有用なものですが、なかには複数のお薬手帳を持っていて情報がまとめられていない方も見かけます。お薬手帳は一冊に情報を集約し、携帯していることが重要です。

今後デジタル技術の進展により医療情報も電子化が進みます。お薬手帳は、ご自身の希望により紙媒体と電子版のどちらも選ぶことができますので、電子版お薬手帳も次第に増えてきています。ライフスタイルに合わせて選択してみる等、有効に活用してください。

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お薬手帳のご相談はかかりつけ薬剤師・薬局に
第4回
薬の飲み方を守っていますか

セルフケア・セルフメディケーションで利用する市販薬は、消費者が自らの判断で使用する医薬品として、安全に使用できる成分や服用方法などが定められています。市販薬には必ず使用上の注意や「1回1錠」「1日2回まで」など服用方法が記載された説明書(添付文書)が付いています。決められた用量、用法などをきちんと守ることがとても大切です。症状が良くならないからといって自己判断で飲む量を調節することは、症状の悪化や中毒症状をおこしてしまう原因になります。

医薬品の不適切な使用を繰り返し行う(濫用)と、その薬を飲まずにはいられない依存状態に陥ってしまうことがあります。近年、精神的な苦痛から逃れようとして医薬品を意識的に大量に摂取する「オーバードーズ」を繰り返す人が増えていると報告されています。身体に大きな負荷がかかるだけでなく、濫用による依存症につながり、自分自身で脱け出すことがとても困難になります。また医薬品の依存から、大麻や危険ドラッグ、覚醒剤などへ手を伸ばしていった例も複数報告されています。

こういった医薬品の不適切な使用を防ぐため、薬局などでは「濫用等のおそれのある医薬品」について購入数を制限するなどの対策を行っています。安全性の高い市販薬でも、決められた使用方法を守らないと身体への悪影響があることを知っておいていただくことが大切です。また、ご自身やご家族が濫用をやめられないなどの悩みがある場合には、お近くの薬局・薬剤師までご相談ください。

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薬物乱用防止に係る取組み
第5回
子供と薬と薬剤師

「良薬は口に苦し」ということわざもありますが、最近の子供用の粉薬は苦味を消す工夫が施されていて、とても飲みやすくなっています。しかし、小さな子供では薬を嫌がることがしばしばありますよね。まずは飲ませてあげる人が笑顔で飲ませて、子供が飲めたらたくさん褒めて安心させてあげてください。そして粉薬を水に溶かして飲む場合のコツは、薬は水に溶かして時間をおくと薬本来の苦みが出てしまうことがあるので、飲ませる直前に水に溶かし、飲んだ後は水などを飲ませて口の中に薬が残らないようにしてあげてください。

もし、何か食品に混ぜて飲ませる時には、食品によっては薬の味や効き目が変わってしまうので、ご注意ください。飲食物との相性は薬の化学的性質によって様々です。その一方で、手元に水がない場合にはお茶でもジュースででも時間通りに飲んでほしい薬もあります。薬ごとに子供が飲みやすくて、しかも薬の効き目に影響がない、そんな方法を薬剤師はたくさん知っています。

また、長期間服用しなければならない薬がある場合は、徐々に自分の意志で服薬できるようになることも重要です。反抗期や思春期では、薬が必要な理由を薬剤師から子供に直接説明することで、治療に前向きになってくれることもあります。学校に通う年齢では、学校で薬を飲まなくて良いように効き目の長い薬を提案することもできます。薬剤師は、薬を飲む人や見守る人が笑顔でいられるよう、薬の種類や使い方・管理方法を提案し、応援します。

子供の薬のことで困りごとがあるならば、ぜひ薬局で薬剤師にご相談ください!

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かかりつけ薬剤師・薬局とは?
第6回
薬剤師を目指すあなたに

「薬剤師になりたい」「なろうかな」と考えているあなたに知っておいてほしいことが3つあります。

1つ目は、薬剤師の仕事は調剤だけではないということです。薬剤師になるまでには、大学で病気や治療についてはもちろんのこと、医薬品をはじめとする様々な化合物の特性や取扱いについて学習します。その専門知識を活かし、病気になった人だけでなく、健康な人が健康のままでいられるようにサポートするのも薬剤師の仕事です。また、医薬品の効果や副作用を薬剤師の視点から評価して、医師や看護師等とともに患者さんの治療を支えます。

2つ目は、薬剤師の働く場所は病院や薬局だけではないということです。多くの薬剤師は病院や薬局で働いていますが、病院では入院患者さんのベッドサイドや救急救命室、医薬品情報室など、薬局では在宅医療や健康相談などの調剤室以外の場所でも活躍しています。災害時には避難所でも活動します。また、製薬企業の医薬品開発・製造・販売等の各部門及び保健所をはじめとする行政機関などで専門職として責任ある仕事を担っています。そのために大学では、様々な仕事を見学・体験したり、実習を通じて仕事について理解を深め、倫理観や責任感を育みます。

最後の3つ目は、薬学部に入学したらしっかりと勉学に励む覚悟が必要ということです。6年間の大学生活は仲間とともに切磋琢磨して過ごします。大変な時もありますが、努力したことがすべて社会のため、人々のため、自分や家族のために役立てられます。ぜひ薬剤師を目指してください。

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