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Promises 2020への約束:多彩な"マルチアスリート" 渡部暁斗×大橋悠依

スキージャンプの飛び出しと競泳の飛び込みのポーズを取る渡部暁斗(右)と大橋悠依=東京都千代田区で2018年4月27日、佐々木順一撮影

Promises 2020への約束

多彩な"マルチアスリート" 渡部暁斗×大橋悠依

 競技の枠を超えて思いを語り合う「Promises 2020への約束」。今回のテーマは多彩な能力を求められる「マルチアスリート」で、ノルディックスキー複合で五輪2大会連続銀メダルの渡部暁斗(29)=北野建設、競泳の17年世界選手権女子200メートル個人メドレー銀メダルの大橋悠依(22)=イトマン東進=が対談した。冬季五輪4大会連続出場のベテランと東京五輪を目指すホープが複数種目に取り組む難しさ、メンタル面の工夫などを語り合った。【構成・村上正】

    「金取る」言えば現実に

     ――なぜ複数の種目を行う複合(ジャンプ、クロスカントリー)や個人メドレー(バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形)が専門になったのですか。

     渡部 出身地の長野県白馬村で1998年に開かれた長野冬季五輪で、ジャンプ競技を見に行ったことがきっかけです。初めはジャンプの選手になりたかったんです。長野を含む本州では、ジャンプの選手がクロスカントリーも行う複合の試合にも出なければいけないという暗黙のルールがあります。初めは嫌々でした。ジャンプを飛びたいのに、なんで走っているんだろうと。そこから僕の複合が始まりました。なぜ選んだかというと、複合の方が結果が良かったからです。

     大橋 長野五輪の時は、おいくつでしたか。

     渡部 9歳です。春になって10歳から競技を始めました。

     大橋 私は(6歳からスイミングスクールに通い始め)小学2年から本格的に競泳をしています。その頃は背泳ぎが得意でした。スクールでは個人メドレーの練習をするため、試合に出場する機会もありました。それでバタフライや平泳ぎを始め、結果が出て個人メドレーでやっていくしかないと思いました。決めたのは中学2、3年生からです。

     渡部 僕も同じで、高校になる時に選びました。中学3年で複合の方が結果が出ていて、この道しかないなと。スペシャリストにはなれない。でも、バランスはいいから、そっち(複合)に進むしかない。

     大橋 1種目では戦えないけど、これなら自分でもできるって。

     渡部 そうですね。意外な共通点がありますね。

     ――トレーニングは得意種目を伸ばしますか。それとも弱点強化に取り組みますか。

     渡部 複合は難しくて、ジャンプは体重が軽ければ軽いほどいい。ただ、スキー板の長さは身長と体重で決まり、長い板を使うためには身長によって体重の下限が決まっています。なるべく軽い方がフワフワ浮くことができる。クロスカントリーは上半身のパワーも必要で、体重は気にしなくていい。矛盾していますが、軽いけど力強いという状態を作らなければいけない。

     大橋 私たちは練習の中で自由形をベースに置くことが多いです。指導を受けている平井伯昌先生は他の3種目の練習もたくさんしますが、技術を身につければ自由形のベースの体力で泳げるという考えです。

     渡部 なぜ自由形なのですか。

     大橋 一番速い種目ですし、バタフライだと長く泳げないので、400メートルを何回も繰り返して距離に対する耐性をつけています。

     渡部 僕もトレーニングで水泳をやります。イトマンスイミングは全国にありますよね。知り合ったおじさんが、イトマンで大学まで水泳をやっていたといい、「泳いでみい」と言われ、見てもらいました。平泳ぎが一番楽ですが、自由形で泳いだ方がいいでしょうか。

     大橋 ゆっくり泳ぐなら平泳ぎが楽ですけど、心肺機能を高めるなら脈を上げないといけないので自由形が一番適しているかなとは思います。

     渡部 山で走ることが多く、膝や腰など体へのダメージが大きいのですが、水の中でトレーニングすると、いったんリセットされます。水泳を1、2週間に1回入れることで、良いサイクルでいけます。体脂肪率が低いから体が浮かず、おじさんからは「脂肪をつけないとダメだね」と言われましたが、本職の競技のためにつけられないんです(笑い)。

     大橋 いろいろやられていますね。

     渡部 興味を持ったことは全部手を出してみようと思っています。いろんなスポーツをやると、知らなかった体の動きが見えてくることもあります。

     大橋 体の使い方はうまくなりますよね。

     渡部 他にもいろいろやります。トラックでするランニング、山を走ったり、登山も。球技も結構やりますね。そんなにやる時間があるのかって感じですが……。毎日、遊んで楽しく練習しています。僕は、長く競技を続けていこうと思っています。毎日毎日、自分の競技だけだと飽きてくる。なるべく365パターンの練習を作るぐらいの勢いで、いろいろと手を出しています。

     大橋 楽しそうですね。

     渡部 結構、楽しいです。特定のコーチがいないんです。技術的な部分ではナショナルコーチがいますし、所属先にもコーチはいますが、1週間のメニューを「これでいきます」と報告するだけ。気づいたことがあれば言ってもらっています。水泳と違って、屋外で練習するので天気に左右されます。「今日は雨だ、帰ろう」とか、風がきついから練習できないこともよくあります。今後のことを聞かれても分かりません。その日暮らしでやる感じです。

     大橋 水泳は難しく、一般的には「1日休むと3日遅れる」と言われます。休むのも大事ですけど、オフ明けの日は感覚が違う。今日は、全然かけていないなとか。基本的にオフは週に1回で、それ以外は泳いでいます。社会人になって1人暮らしを始めたので、最近は栄養の勉強もしています。

     渡部 結婚しているんですが、妻(由梨恵さん=フリースタイルスキー・ハーフパイプ平昌五輪代表)も競技をやっています。違う種目なので、家にいないこともあり、一人でご飯を作って食べています。

     大橋 1年のうち日本にはどのくらいいますか。

     渡部 半分ぐらいですね。

     大橋 思っていたよりも多いです。もっと海外で練習するのかなと思っていました。

    良い時の映像を見る

    競泳で複数種目のトレーニング方法などを語る大橋悠依=東京都千代田区で2018年4月27日、佐々木順一撮影

     ――体を動かす以外にメンタルトレーニングで取り組んでいることはありますか。

     渡部 僕らも走らない日を作ると、取り返すのに3日かかると言われています。だから、毎日走っていた時もありました。でも、天気に左右されるし、意外と持久力は落ちませんでした。そこでちょっと変えてみようと思い、いろいろ始めてみました。そうした方がいい成績が出ました。体を動かす日でもヨガを入れたり、完全に休みの日を作ったり、さまざまなパターンで体と頭のリフレッシュをしています。座禅、ヨガ……なんでもいいんですよね。最近気づいたのは座ること自体に意味があるということ。おなかに力を入れるのが大事で、自然に腹圧が入る位置らしいんです。その後でトレーニングをすると、おなかに力を入れるアップにもなる。「腹が据わる」と言いますが、落ち着いていける。最近、朝はただ座っているだけです。10分ぐらい、ぼーっと。そうすると、体も準備が整い、落ち着いた気持ちで1日が始まります。

     大橋 私はそういうことをやってなさすぎて、申し訳なくなります。休みの日は、出かけることもありますが、大学を卒業して水泳関係以外の人と会う時間が少なくなったので、最近は大学時代の友人と出かけます。就職して大変な時期なんですが、ご飯にも行きます。でも、自分の良かった時のレース映像は毎日見るようにしています。自分で言うのもなんですが、「いいレースをしたな」というような気持ちになります。泳ぎをイメージしやすく、毎日見ることで「これ、結構直せるな」と気づくことも多い。毎日、自分のレース映像を2、3回ぐらいは見ています。気持ちを高め、練習に行くぞって。

     渡部 その日の映像と見比べるんですか。

     大橋 試合になると、より一層良い泳ぎができるんですが、練習でそれに近い泳ぎをするのも必要です。今日はちょっとうまくいかなかったなとか、呼吸のタイミングが早いなとか、毎日見ていると、その日の映像を見ても気づけることが多く、次の日へのエネルギーになっています。

     ――集中するために取り組んでいることはありますか。

     大橋 試合の日は寝っ転がって目をつむって音楽を聴いています。こういう動きをして、こういうターンをしてとか、このぐらいのタイムでいきたいとずっと考えて、という感じです。

     渡部 イメージする割合が多いですね。

     大橋 そうですね、その通りに体を動かすように持っていきたいので。

     渡部 ウオーミングアップはサブプールで泳いで、戻って来てから寝っ転がるんですか。

     大橋 はい。人それぞれレースの何分前にアップを終えるとか、結構自分の中で決まっていて、そこからパターンッて寝っ転がります。

     渡部 時間が過ぎてしまう時はないですか。

     大橋 それはないです。チラチラ(周りを)見ながら。そろそろ行かないと、とか。

     渡部 寝てしまうことは。

     大橋 あります。(笑い)。「あっ寝ていた」とか。そういう時の方がすっきりしていることもあります。頭の中もすっきりしているので、逆に良い時もあります。緊張はされますか?

     渡部 しますよ。大体前日の夜が一番緊張しているかな。なんでかというと、「分からない」からです。明日どうなるか、朝起きてみないと試合があるかも分からない。会場に着くと急に風が吹いてきたり、試合が遅れる時もあったりします。ジャンプを飛び終えて、飛距離と飛型点を計算してポイントによるタイム差を換算して(後半の距離を)スタートするんですが、ジャンプを終えてみないと、どんなレースになるか読めません。最終的にはなるようにしかならないと思っています。

     大橋 それは水泳にはないですね。タイムスケジュールが出て、入場開始の時間が決まっていて、その時間に自分たちが合わせにいくだけなので。

     渡部 ちゃんと自分のレーンがありますし、波が立っているわけでもないですもんね。僕らは水泳でいうと、波があるところでオープンレーンでレースをやっている感じで進むので、他の人の動きを見て人間観察が意外と重要です。

     大橋 それはありますね。自分の調子が良い時は、「あの人は緊張しているんだな」とかが分かります。

     渡部 いつもと違うのが見て取れます。レースが始まってもいつもと違うなとか、飛ばしすぎだなと思うと落ちてくる。逆に「死んだふり」もある。ふらふらして先に行かせて最後に追い抜く駆け引きもある。泳ぎながら横を見ますか。

     大橋 ペース配分で前半から行く選手、後半に上がってくる選手がいます。私は周りを見るタイプなので結構、コース順まで一応覚えていたりします。

     渡部 自由形が見やすいんですか。

     大橋 はい。一番見えないのが背泳ぎです。

     渡部 バタフライは。

     大橋 なんとなく自分より速いなとかは分かりますが、バタフライは顔を横に向けて呼吸する選手もいます。日本にはあまりいないんですが、海外だとしっかり見ている選手もいます。

     渡部 目が合いながら泳ぐこともありますか。

     大橋 自由形でも呼吸したタイミングで目が合うことや、タッチした後に、「目が合ったよね」ということもあります(笑い)。

     ――試合で想定と違う場合は楽しめますか。

     大橋 私は心配性なんです。タイム的には勝てるだろうなというレースでも負けることを含め、いろいろなレースパターンを想定しています。背泳ぎのところで前に出られていたら、平泳ぎは落ち着いてなどと、準備します。

     渡部 素晴らしいですね。

     大橋 不安なんで。不安だから準備するんです。

     渡部 僕はレースの準備はできないんです。スタートしないと分からないので。インタビューは勝ち、負けの両方を考えています。それを(レース前の)夜に考えます。レースが終わった後に、こう振る舞おうとか。

     大橋 平昌五輪前のワールドカップ(W杯)での言葉を聞いて、「この人強いんだろうな」と思いました。

     渡部 どの辺がですか。金メダルと連呼していたからかな。

     大橋 そうではないです。五輪前の一戦で負けた時がありましたね。そこで、「勝ってかぶとの緒を締めよということですね」と言われていて、すごいと思いました。この人、強いんだなと。

     渡部 たぶん、準備していたんだと思います。ある程度準備しているので、いつもしゃべりすぎちゃうんです。

    あえて強気な発言を

    練習やオフの過ごし方などを話す渡部暁斗=東京都千代田区で2018年4月27日、佐々木順一撮影

     ――平昌から東京へのバトンとして、4大会連続で五輪を経験した渡部選手から、初の五輪を目指す大橋選手へ何を伝えたいですか。

     渡部 自分が明確になりたい姿や、出したい記録、結果を口に出した方がいいと思います。最初(の五輪)は17歳で、勝負をできる実力もないし、世界では全くの無名でした。その時は楽しかったけど目標もなく、戦えなかった。何大会も経験する中で、自分が目指しているものがあるなら口に出して伝えていかないと分かってもらえないと感じました。「言霊(ことだま)」といいますが、発しているうちに段々と現実になるんだと思います。「金メダル」と言わないと、銀メダルすら取れない。「メダルを取りたい」だと4位にしかならない。最高のものがあるなら口に出した方がいい。あとは正直、金と銀では雲泥の差がある。扱われ方とか。金に絞った方がいいですよ。初めてだろうがなんだろうが。銀しか取れない僕が送れるアドバイスです。

     大橋 五輪は他の試合とは違うと思いますか。フィギュアスケートの宇野昌磨選手は「五輪は一つの試合で、他とは変わらない」と言っていましたが、特別ですか。

     渡部 W杯は年間で競い、実力が一番出ます。だから、そこが世界一だと思って、反発してきました。「別に五輪なんてたいしたことない」「W杯の方がすごい」と言ってきましたが、斜に構えていても五輪はやってきます。周りの選手もソワソワし出すし、メディアの数も増えてくる。大きな流れに逆らって泳ごうと思っても泳ぎ切れず、流されるしかない。(14年の)ソチ五輪の時は反発しながら迎えたんです。別にそんなことをしなくても五輪はやってくる。だったら流されちゃえって。特別は特別だと思う。

     心配性だと言われていましたが、逆に考えない方がいいのかもしれません。五輪のインタビューで負けた時になんて言おうかなって、それを考えている時点でダメですよね。4年に1度の祭典と言われるぐらいなので、一番目立っていかないといけない。心配性の自分を忘れ、みこしの上で踊っちゃおうと。良い意味で調子に乗って、その時は良いことばかりを考えて、謙虚な自分を忘れて調子に乗った方がいいんじゃないかなと思います。僕は、次はそうやっていこうかと思います。2大会銀メダル止まりだったのはなぜかというと、負けを考えすぎていたからです。調子に乗ってください。僕は考えすぎたのが良くなかった。

     大橋 強気の発言の裏にも、そういう思いがあるのですね。

     渡部 あえて強気に発言したこともありました。本心ではない部分もあって、言いたくないけど五輪、五輪って言わないといけないと思っていました。心の底から調子に乗らないと。「絶対金メダル取れるんで」と思わないと、銀止まりだと思います。頑張ってください。応援しています。

    座禅を組む渡部暁斗(右)と大橋悠依=東京都千代田区で2018年4月27日、佐々木順一撮影

     わたべ・あきと 長野県白馬村出身。小学4年からジャンプ、中学から本格的に複合に取り組んだ。高校2年生だった2006年トリノから4大会連続で五輪に出場。14年ソチ、18年平昌と2大会連続で複合個人ノーマルヒル銀メダル。17~18年シーズンに初のW杯個人総合優勝を果たした。

     おおはし・ゆい 滋賀県彦根市出身。2人の姉の影響で、6歳から水泳を始める。昨年の日本選手権で個人メドレー2冠を達成し、初めて日本代表入り。世界選手権は女子200メートル個人メドレー銀メダル、女子400メートル個人メドレー4位。両種目の日本記録保持者。